道明寺に連れ出されるまま店を出て、5分ほど歩いた所で、あたしはずっと気になっている事を口にする。
「ねぇ、いつもこうなの?」
「…あ?なにが?」
「すれ違う人の視線。」
すれ違う女の人はもちろん男の人までもが、道明寺に視線を奪われているのが分かる。
「もしかして、見られてるのに気づいてない?」
「気にしてねーし。」
「へぇー。」
驚きを通り越して感心するほど堂々としているこの人。
でも、慣れていないあたしは落ち着かない。
そーっと距離を開け道明寺から離れると、
そんなあたしを見て、
「わりぃ、早かったか?」
と、歩きを遅める道明寺。
再び肩が並び、今度はさっきよりもゆっくり歩く道明寺を横で感じながら、あたしは考える。
なに、これ。
どうしてあの悪名高き男とあたしは一緒に歩いているの?
ライバルとして見たことはあっても、一緒に並んで歩くなんて考えた事もなかった。
今まで散々聞かされてきたこの人の悪伝説。
歩く人間凶器とも言われた男なのに、実際に触れてみると、少し違って見える時もある。
ほら、今みたいに、あたしの方をチラッと見たときの目。それほどギスギスしている訳でもなく、むしろ、優しいと思ってしまうのは勘違いか。
混乱してくる頭をブルブルと思いっきり振ったあと、
「あたし、駅こっちだから、じゃあ。」
と、道明寺に告げ右折する。
すると、
「おいっ、車に乗っていけよ。」
と、腕を引っ張られた。
「は?」
「運転手がそこの角で待ってる。
うちの車で家まで送ってやるよ。」
「…冗談でしょ。」
「一般庶民が道明寺家の車に乗れるなんておまえが初めてかもな。」
勝ち誇ったように言うこの人。
「いえ、結構です。
一般庶民は電車で帰りますんで。」
「遠慮すんな。」
「遠慮じゃなく、本当に結構です。」
「あ?断るのかよ。」
「道明寺家の車になんて恐れ多くて乗れません。あんたは車で帰る、あたしは電車で帰る、ね、それでいい?」
「……、」
あたしを見つめて黙ったままの道明寺。
「じゃあ、帰るから。」
あたしはそう言い捨てて、くるりと体を反転させる。
すると、その時、手の中にあった携帯が短く鳴った。
画面を見ると、美咲ちゃんからのメールの着信。
そこには短く、
「つくしさん、助けて。」
と。
「えっ!!」
思わず大声で叫ぶあたし。
それを見て、道明寺があたしに言う。
「どうした。」
「み、み、美咲ちゃんが、助けてって!」
「あ?」
「だからっ、美咲ちゃんに何かあったみたい!
きっと、あのお客さんかも。今日は来てなかったから大丈夫だと思ってたのに、もしかして、どこか近くにいたのかなっ、でもっ、」
突然のことにパニックになるあたしに、
「牧野っ、落ち着け。
とにかく、そいつに電話してみろ。」
と、道明寺があたしの肩に両手を当てて冷静に言ってくれる。
「ん、分かった。」
美咲ちゃんに電話をしても繋がらない。
その時、また着信音がなり美咲ちゃんから
「〇〇公園のトイレに隠れてます。」
とメールが来た。
〇〇公園は美咲ちゃんが使っている駅の近くにある大きな公園で、ここから歩けば20分ほどのところにある。
「今すぐ行くからそこから出ちゃだめ」
それだけ返信すると、あたしは道明寺に言った。
「道明寺っ!」
「ん?」
「お願い!あんたの家の車に乗せて!」
さっきまであれだけ拒否していた自分が恥ずかしいけれど、今はそんなことを言ってる場合じゃない。
そんなあたしに、道明寺は少しだけクスッと笑ったあと、
「だから、さっきから乗れって誘ってるだろバカ。」
と、言ってあたしの手を強く握り、車の方へ走り出した。
にほんブログ村
↑ランキングに参加しています。応援お願いしまーす♡
コメント