「あんたが、どうしてここに?」
俺の顔を見て呆然とする牧野。
そこに、
「あらあら、イケメンが勢揃いしているわね〜。」
と、年配の女が近付いてきた。
「いらっしゃいませ〜。
私がここの店長です。つくしちゃんのお友達?」
「いえっ、違います!」
速攻否定しやがる牧野だが、
それに被せるように総二郎が言う。
「そうです。大学の友達です!」
「ようこそ〜。
何飲みます?うちはね、仙石屋っていうお団子屋もやってるの。だから、和菓子と抹茶もあるのよ。」
「店長、僕、少しですが御茶をやってまして。良ければ1杯作らせて貰えませんか?」
「あら〜そうなの?
どうぞどうぞ。カウンターに入って〜。」
総二郎のマダムキラーは相変わらず最強で、あっという間に女店長はメロメロだ。
お祭りコンビは立ち上がり、カウンターへ入っていく。
そして、類も席を立ちフラフラと店内を歩いて回る。
「つくしちゃん、せっかくお友達が来たんだから、座って休憩していいわよ。」
「えっ!いや、いいですいいですっ。」
あからさまに拒否するこいつが気に食わねぇ。
「座れよ。」
俺の正面を指差して言ってやる。
「……いい。」
「座れって。」
「仕事中だから、」
それでも拒否する牧野の後ろから、スタスタ類が近付いてきて、
「司が暴れる前に座ろうね。」
と、俺の正面に強引にこいつを座らせた。
真正面に座るこいつの頭には猫耳が付いている。
自然とそこに目が行くと、それを感じたのか、慌てて猫耳を取る牧野。
「大学1位の奴がコスプレかよ。」
「はぁ…やりたくてやってると思う?
店長のお願いだから断れないのっ。」
怒ったようにそう言う牧野にカウンターの中から店長が言う。
「つくしちゃんったら、いつも嫌がるのよ〜。
去年のクリスマスに一日だけ限定でサンタのコスチュームでお店を開けたら、それが大盛況でね。それから、固定客が増えちゃって、そのお客様を喜ばせるために週一回バイトの子に可愛いコスチュームでお願いしてるの。
でも、普段はつくしちゃんはこの隣にあるお団子屋で働いてるから着てないのよ。こんな姿見れるのレアだから、良かったわね〜今日来て。」
どうりでお祭りコンビが『今日、今すぐ行くぞ。』と急かしてた訳か。
店長が話す間、ずっと猫耳のカチューシャを触りながら聞いている牧野。
伏し目がちでも分かる長いまつ毛。
艶のあるぷくっとした唇。
小せえ手。
女をこんな間近で直視するのは初めてで、
女っつーのはこういう生き物か?と思うほど男とは違う事を実感する。
そんな牧野を見ながら、
「嫌ならバイトなんかやめりゃいーだろ。」
と言ってやると、
パッと顔を上げて
「はぁ?あんたとは住む世界が違うの。」
と、こいつが睨みながら言った。
「あ?」
「あたしの苦労なんて、お坊っちゃんのあんたには分からないでしょ。」
「……なんだよそれ。
ちゃんとわかるように言えよ。」
「あたしは自分で働いたお金で大学に通ってるの。だから、バイトをやめるって事は大学をやめるって事。そんな簡単に嫌なら辞めろなんて口にしないでよ。」
漆黒の瞳が俺をまっすぐに見つめる。
そんな俺らを見て、カウンターからあきらが叫ぶ。
「おいおいっ、そこ喧嘩すんなって。
ほらほら、総二郎がおまえらに抹茶淹れてくれたぞ。それでも飲んで、楽しく会話しろよ。」
フラフラ店内を歩き回っていた類が、俺達のテーブルに御茶の入ったお椀を運んでくる。
と、その時、
店の入口が開き、「こんちは〜。」と、3人組の客が入ってきた。
「あーら、いらっしゃい。
いつもありがとうございます。
今日はね、優紀ちゃんがお休みなのよ。
でも、代わりにつくしちゃんが可愛い猫ちゃんになって来てくれてるからゆっくりしていってね〜。」
そう客に店長が話しかけると、3人組が一斉に牧野を見る。
それを見て、仕事モードに切り替わった牧野が慌てて
「どうぞ、こちらの席に。」
と、言いながら立ち上がる。
そして、外していた猫耳のカチューシャを頭につけ直そうとしているのを見て、俺は咄嗟に手が伸びた。
「つけるな。」
そう言ってそのカチューシャを奪う。
「は?」
「いいから、そのままで接客してこい。」
「なんでよ、返して。」
客に聞かれないように小声で訴える牧野を見ながら、俺は何をやってんだ…と自嘲する。
黒い髪に漆黒の瞳。
長いまつげとピンクの唇。
そこに、猫耳とか……マジでやめろ。
他の奴に見せたくねぇとか、
突然湧き上がる正体不明の感情に、
マジで…どうかしてるぜ俺は。
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