会いたいの一心で顔を見に行った俺が、口実として腹が減ったと連呼したからか、走って追いかけてきたこいつの手には小さな包みがいくつか。
覗き込むと、チョコレートのクッキーやらキャラメル、豆?……なんだかわかんねーけど、食ったことねぇものばっか。
それを俺にくれるためにこいつは走ってきたのかと思うと、すげー可愛くて、そのまま腕を引いて拉致することにした。
俺のオフィスまでのエレベーター内で、強引にキスをして口を塞ぐ。それでも、おとなしくなんねぇこいつに苦笑しながらも、なかなか離すことが出来ず、最後はバカだのアホだの暴言を吐かれまくったけど、赤い顔のこいつを見てると自分でも顔が緩んでると自覚する。
相変わらずのポーカーフェイスで出現した西田から、30分の休憩タイムをゲットして、俺はこいつをオフィスに連れ込んだ。
「支社長っ、困ります!」
「あ?何でだよ。」
「何でだよって、あたしもお昼ご飯食べにいきたいし。」
「だから、ここで食えばいいだろ。」
「はぁ?」
そんな言い合いをしてるところに、西田が二人分のコーヒーと正方形の箱を持ってくる。
「今日はサンドイッチですが、あいにく急だったもので一人分の用意しかありませんが。」
「いんだよ。俺はそんなに腹へってねーし。」
そう言ってソファにこいつを座らせて、俺も隣にドカッと座った。
「ちょっと、お腹すいたってうるさかったの支社長ですよねっ!」
「あ?……あー、さっきまではな。」
「はぁ?
…………はぁー、この人嘘ついたんだ……
あー、騙されたんだあたし。」
俺の方を睨みながら一人ブツブツ言ってるこいつに、つべこべ言ってねぇーで食べるぞっと言おうとしたとき、目の端に珍しいもんをみた。
あの、いつも無表情の西田が静かに笑ってやがる。
俺らにコーヒーを出しながら、下を向いてるから見逃すところだったけど、口の端を上げて確実に笑ってる。
「あたし、すぐ戻りますので。」
「ふざけんなっ、30分俺といろ。」
「支社長も会議の準備ありますよね?」
「おまえといても出来る。」
「いや、一人の方が集中できると思いますけど……。」
「おまえといる方がリラックス出来るんだよ。」
そんな会話を続ける俺らを見かねたのか、コーヒーを置き終わった西田が
「牧野さん、支社長はこのあと夜遅くまでスケジュールが詰まっておりますが、今この30分が唯一の休憩時間です。
ですので、支社長のご希望通りリラックス出来るよう、牧野さんもご一緒にご協力下さい。」
そう、遠回しに『ここにいろ』と強要したあと、部屋を出ていった。
「ズルいっ。西田さんまで……。」
「ぷっ……しゃーねーんじゃね?
西田に言われたら断れねぇだろ?」
「ある意味、支社長より強烈……。」
マジで、そんなに腹は減ってなかった俺は、西田が用意したサンドイッチをこいつにやって、俺はさっき手にしたはじめて見るチョコレートのクッキーやらおかきやら豆?を食うことにした。
「ほんとに食べないんですか?」
「ああ、いらねぇ。俺はこれで充分。」
「あとで文句言われてもあたし知りませんからねっ。」
「言わねーって。」
今日は早い時間から会食の予定が入ってるから、もともと昼は食うつもりはなかった。
それに、目の前ですげー上手そうに食べるこいつを見てると、それだけで癒しの効果がある。
自然とじっと見つめる俺に、
「な、何ですかっ。」
と目線をそらすこいつ。
「いや、マジでかわいいなぁと思って。」
自分でも背筋がムズムズしてくるような言葉が口をつく。
それなのに、
「はぁ?支社長、相当目がやられてますね。
眼科言って下さい、眼科。」
そう言ってバッサリと切るこいつ。
「あいにく目だけはいーんだよ。」
「んー、じゃあ、……頭ですかね。
ネジが完全に外れてますね。」
どこまでもかわいくねぇこいつ。
「そうかもな。俺はネジが外れてんのかもしれねぇな。
確か、俺はこの間おまえに好きだって言ったはずなのに、その返事を覚えてねーんだよ。
若いのに忘れるってヤバイだろ?
それも、ネジが外れてるからなんだろーな。」
「…………。」
「それとも、まさかまだ返事を貰ってねぇってことはないよな?」
「…………さぁ。」
サンドイッチを一口くちに入れながら完全にとぼけるこいつに、
「力づくで聞いてもいいんだぞ?」
と顔を近付けて言ってやる。
至近距離で見るこいつの目は、負けずに睨みかえしてくるのに、それでいて潤んでいてキラキラしてて、仕掛けた俺の方が引きずりこまれていくように、その距離を縮めていく。
近付く俺に、逃げるこいつ。
けど、逃げ道には限界があって、ソファのうえで逃げ切れなくなったこいつの唇と重なる俺の唇。
必死に固く閉じてる唇をキスの合間に親指で開かせると、口のなかにはまだ食べかけのサンドイッチがある。
その為か、「んーっ、んー、」と、
首を振ってキスを逃れようと抵抗するけど、
俺はこいつの口のなかに残ったサンドイッチを舌ですくいだし、キスをしながら咀嚼していく。
全部なくなったのを舌で確認して、唇を離し
「すげーエロいキス」
と呟くと、
「バカっ、もうっ。」
と両腕で顔を隠すこいつ。
その仕草が益々俺を煽って、もう一度その甘美に浸りたくて、俺はテーブルの上に残ってるサンドイッチを一口くちに入れると、こいつの腕を解き、また唇に食い付いた。
今度は俺からサンドイッチを送り込むように。
俺はこいつに言われるように変態かもしれねぇ。
自分でも鬼畜だな、とキスしながらも思う。
自分がこんなにエロい男だとは思ってなかった。
今まで、総二郎とあきらのことを散々そういうことで罵ってきたけど、あいつら以上かもしれねぇ。
長くてあまりにも濃厚なキスを終えると、
「バカっ!バカバカっ。もぉーっ、バカっ!」
そう言って俺の胸を叩くこいつ。
俺はその手を掴み言ってやる。
「おまえからのバカは、全部『好きだ』に変換してるからな、俺は。」
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