総務課の牧野さん 19

総務課の牧野さん

総二朗には『引くときは引けっ』と助言されたのに、3日会わないだけで我慢できねぇ俺って情けねぇ……と思いながらも足は総務課へと急ぐ。

俺のオフィスから5階下のフロア。
総務課や経理課など4つの課が入ってるフロアはそこだけで100人の社員が仕事をしている。

エレベーターを降りてフロア内をそっと覗くと、
一番壁側に座るあいつの姿があった。
俺は迷わず入っていく。
すれ違う社員がビックリした顔で俺を見てくけど、それ以外の社員は仕事に集中していて気付いてねぇ。

総務課のエリアまでくると、課長らしきやつが俺に気付いて目をでかくして固まってるが、そいつに俺は人差し指を立てて、「シッーっ。」と合図を送ると、コクコクと頷いた。

当のこいつはパソコンに集中していて全く俺に気付かねぇ。
側にある座り心地の悪そうなガタガタ言う椅子を引っ張ってきて、その椅子の背もたれを跨ぐようにしてこいつの横にドカッと座った。

「よおっ。」

「し、支社長っ!……な、何してるんですか?」
すげー驚いて焦ってるのが笑える。

「何って、充電しに来た。」

「はぁ?充電って、…………支社長室には電源ないんですか。」

「電源?何言ってんだ?おまえ。」

「…………いえ、もう、いいです。」

そう言ったきり、またパソコンに向かってカタカタやりだしたこいつ。
俺の方を見ようともしねぇ。

「なぁ、飯行かねーの?」

「行きません。」

「俺、すげー腹へってんだけど。」

「…………。」

「午後から会議だから、今の内に何か食っておかねーと夕方まで持たねぇんだよ。」
自分でも笑えるほど甘えた声になる。

「なら、こんなところにいないでご飯食べて来てくださいよ。」
どこまでも冷たい女。
俺の誘いに喜ばない奴はおまえくらいしかいねーぞ。

「だから、一緒になんか食おーぜ。」

「支社長、知ってます?
一応、社員のお昼休みは12時からなんですよ。
まだ今は11時半ですから、午前の就業中です。
支社長がこんなところで遊んでたら、社員の士気が下がります。」
相変わらず目線をパソコンに合わせたままそう話すこいつに、課長の方がハラハラした顔つきで俺らの様子を伺っている。

「なんだよ、その社員のシキ?しき?四季?
春夏秋冬のあれか?」
そんな俺の真剣な質問に、今まで真面目な顔でパソコンに向かってたこいつが、

「ぷっ……それ本気で言ってます?」
と、俺の方を見た。

そして、
「もぉーほんとやだ、この人。
士気も知らないって……。支社長ってもしかして日本語弱い系ですか。」
そう言って笑いながら俺の目を覗き込んでくる。

やっと俺の方を見た。
3日間、会いたくて堪らなかったこいつは、今俺の前でめちゃめちゃ笑ってる。
「そんなにおかしいかよ。」

「……はい。あまりにもバカで……」
そう言ってまた笑うこいつがすげー可愛くて、無意識に手が伸びた。
ストレートの髪に隠れるこいつの耳にそっと触れる。

「っ!支社長。」
ビクッと肩を震わせるその姿が、こいつとの情事を思い出させる。
たぶんこいつは耳を触られるのが弱い。
一度目はなんとなくしか気付かなかったけど、二度目に抱いたときは確信した。
耳を触ったり、キスしたり、口に含んだりすると、我慢出来ずに甘い声が漏れて、こいつの体から力が抜けてくる。

たぶん本人は気付いてねぇ。
けど、そんなおいしいところを俺が見逃すはずがねぇ。
恥ずかしくてなかなか見せてくれない部分も、耳を刺激しながらなら、体を緩めてくれる。

「支社長権限で、昼休憩は早めらんねーの?」
ズルいと思いながらも、他のやつらに死角になるようにしながら耳を触ってそう聞くと、

「ちょっ!もうっ信じらんないっ。ダメに決まってます!」
そう相変わらずの答え。

だから、色んな意味を込めてこいつにだけ聞こえるように言ってやる。
「腹へると俺、暴走するぞ。」

その言葉にこいつが何かを言おうとした、次の瞬間、俺のスーツの胸ポケットでバイブ音がした。

西田からの呼び出しだ。

「チッ……。そろそろ行くわ。
サンキューなっ。すげー充電になった。」
俺はそう言って社員のやつらに見えるようにこいつの頭をガシガシと撫でてやる。

「ちょっと!やーめーて下さいって。」
そう叫ぶこいつの顔が赤いのは怒ってるからなのか、それとも…………

都合よく考えすぎなのか……。

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