「支社長、どうしてうちのマンション分かったんですか?」
「おまえ、俺を誰だと思ってんだよ。」
「…………ですね。」
部屋を出てエレベーターに乗り込んだあたしたち。
結局この人は何をしに来たんだろう……そんなことを考えていると、1階にエレベーターがついた。
「コンビニどっちだ?」
「えっ、ほんとに行くんですか?……。」
「チーズの、買うんだろ?」
「チーズの……ってそれが何かも知らないくせにっ」
「いんだよ。おまえと二人になれる口実が出来ただろ。行くぞ。」
さらっとそんなことを言いながら、当たり前のようにあたしの手を握る。
しかも恋人繋ぎっ。
「支社長っ、」
「あ?」
「手っ!」
今、確実にあたしの顔は赤い。
それを分かっててこの人は更にあたしを困らせる。
「手ぐらいで赤くなってんじゃねーよ。
それ以上のこと色々やってるだろ、俺ら。」
「っ!バカっ、もぉーやだっ、」
ほんとこの人はどこまでも自己中でどこまでもあたしを振り回す。
コンビニでの買い物を済ませたあと、今来た道を戻ろうとするあたしの手を引いて、
「もう少し歩こうぜ。」
そう言って、知ってるのか知らないのか分からないけど細い道を歩いていく。
あたしの歩調に合わせてゆっくり歩きながら、支社長が口を開いた。
「腕のケガ、どうしたんだよ。」
「えっ、あー、ちょっと火傷して。」
「火傷?」
「あー、全然たいしたことないですから。
朝、お味噌汁こぼしちゃって。」
そこまで言うと、
「はぁーーー。」
と、深い息をついて、あたしの方に体を向ける支社長。
そして、
「マジで、焦った。」
そう呟いた。
「ぶっ殺す覚悟で来たんだぞ。」
「はぁっ?」
「おまえの付き合ってる男が、朝帰りしたおまえに手あげたのかと思った。」
「まさかっ、そんなわけないし、彼氏なんていないって言って……」
そこまで言ったとき、いきなりすごい力で支社長に抱きしめられた。
そして、耳元に顔を埋められて、
「なぁ、このまま俺の部屋に来ねえ?」
と突然言った。
「へ?」
自分でも嫌になるほど色気のない声が出る。
「俺の部屋からそのまま仕事に行けばいいだろ?」
「…………。」
「な?」
「…………ダメダメダメダメっ!」
あまりに唐突の提案だったから、思考が追い付かなかったけど、そんなこと出来るはずがない。
「あ?なんでだよっ。」
一気に不機嫌になる支社長。
「だ、だ、だって、」
ダメな理由はたくさんありすぎる。
今日も朝帰りしたばっかだし、
進にだって怪しまれる。
それに、まだ着替えだってシャワーにだって入ってないし、
明日の仕事の用意さえしていない。
それに、…………
そもそもあたしたちは、そんな仲じゃない。
こんな風に恋人繋ぎをしてコンビニまで買い物したり、遠回りをしてゆっくり帰ったり、その途中で抱きしめられたり……。
その流れで部屋に行くような仲じゃ……ない。
そう頭の中で結論付けた直後、
「好きだ。」
耳元でそんな言葉が聞こえた。
「……え?」
戸惑うあたしに、支社長は抱きしめていた腕を緩めて、まっすぐと目線を合わせて言った。
「おまえが好きだ。」
こんな熱烈な告白ははじめてかもしれない。
しかも、相手は誰もが憧れる支社長。
その色気駄々漏れの顔を見ると、胸がギュッと鷲掴みにされるほど苦しい。
あたしも、黙って可愛く抱き付いたり出来たらいいのに、
こんなときに限って思い出さなくてもいいことを思い出してしまう。
「支社長には、忘れられない人がいる。」
滋さんのその言葉。
今、支社長にとってその人はどんな存在ですか?
まだ忘れられないほど好きですか?
そして、あたしへの『好き』とどう違いますか?
こんな時でも余計なことを考えて素直に喜べない
あたしは、
ほんとに恋愛にむいてない。

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