2度目の恋愛を……。
西田にそう言われて以来、牧野との時間を大切に過ごすように決めた。
記憶が戻れば解決する。そう思っていたけれど、もしも記憶が戻らなくても、俺たちに新たな思い出が残るように。
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朝、オフィスで1日のスケジュールを確認したあと、コーヒーを持って入ってきた牧野に言う。
「今日、夜空いてるか?」
「はい?」
「デートしようぜ。」
その誘いに思いっきり睨みながら返ってくる。
「仕事中にそういう話はしません。」
「じゃあ、いつならいいんだよ。」
「昼休憩とか?」
「昼の休憩時間にいつもいねーじゃんおまえ。」
一緒に食おうと誘う俺を置いて、いつも牧野は社食で昼飯を食う。
すっかり仲良しの社員も出来たらしく、毎日楽しそうだ。
「ラインしてよ。」
「デートの誘いくらい直接言いてぇだろ。」
すると、牧野がクスッと笑う。
「記憶がなくても、そういう所はほんと変わらないよね。」
「そうか?で、今日の夜空いてるのか?」
「空いてない。」
「即答すんじゃねーよ。」
アハハハーと笑う牧野を見てると、デートの誘いを断られたのに顔が緩む。
「飯食いに行こうぜ。」
「今日は用事があるの。」
「俺より大事な用事か?」
たぶんこいつなら「うん。」と即答するだろうと思ったら、
急に黙りこくった後、
「道明寺も一緒に来る?」
と、言った。
「あ?どこに?」
「実家に。夜、実家でご飯食べる約束してるの。道明寺も来る?」
牧野の実家。
たぶん何度も行ったことがあるだろう。
けど、今の俺にはピンと来ない。
「嫌ならいいけど。」
「行く。」
それこそ即答だ。
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仕事中ずっとソワソワしっぱなしだった俺。
そんな俺を見て、西田が「どうかしましたか?」と聞いてきたから、牧野の実家に行くと伝えた。
手土産は何がいいかと聞くと、さすが西田。
お菓子や酒、ネクタイ、宝石など色々案を持ってきたので、今から用意できるものをすべて用意しろと命令した。
「ねぇ、これ何?」
「おまえうちに手土産。」
車の後部座席に乗ったその手土産たちを見て牧野が盛大にため息をつく。
「相変わらず、ほんとバカ。
毎回こんなにいらないからっ。
パパにも言われたでしょ、こんなに持ってくるなら家に入れないって。」
「マジかよっ。」
「あっ、あんた記憶ないんだった。
毎回うちに来るたびに色々持ってくるからパパに注意されたのよ。今度手土産持ってきたら家にあげませんよって。」
「やべーじゃん。」
「そう、やべーの!
だから、これは早くおろして!」
牧野に急かされるように手土産たちの袋を駐車場におろし、牧野家へ向かう。
両親と弟が住む一軒家。
記憶はないけれど、懐かしさは感じる。
俺を笑顔で出迎えてくれる両親に、
「この人、この家のことも記憶にないみたい。」
と、初っ端から雑な説明で済ます牧野。
仕方なく、
「すみません。」
と謝る俺に、
「いいのいいの。こうしてまた遊びに来てくれたんですから。」
と、嬉しそうに俺の腕を取りリビングに連れて行く母親。
今日の夜は牧野のリクエストで急遽、鍋になった。
俺と牧野の思い出の鍋。
昔、牧野のマンションで二人で食った鍋の話は牧野から聞いた。
あの時は俺と過ごした中で一番悲しかった日だったと。
だから、ちゃんと付き合える仲になってからは、何度も二人で鍋を食べたらしい。
悲しい思い出が幸せな思い出に変わるように。
きっと、今日もまたこいつは楽しい思い出を作ろうとしているに違いない。
鍋を囲み夕食の準備が整った頃、
「ただいまー。」
と、玄関から声がした。
そして、バタバタと近づいてくる足音と共に、リビングに若い男が現れた。
その時だった。
その男の顔を見て、俺は思いっきり頭がグラついた。
一瞬の事で何が起きたか分からなかったが、
もう一度目を開けて確かめる。
間違いない。
「弟、久しぶりだな。」
弟を真っ直ぐに見つめてそう言う俺。
そんな俺を、牧野が不思議そうに見て言う。
「……道明寺?」
「牧野。」
「ん?」
「思い出した。」
「…え?」
「弟の記憶が、繋がった。」
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コメント
進君で!?
そっ、そっ、そこでシナプスが繋がったかぁぁーーーっ!!
さすが司君。
記憶の取り戻しかたが読者の予想のはるか斜め上だわーーーっ!
進、結構脳裏に刻まれてると思うので、シナプス繋がりましたー!