オフィスのソファの上で、またしても襲いかかる俺に、
「道明寺っ。」
と、胸を押し返して抗議する牧野。
その開いた口を絶好のチャンスとばかりに、舌を潜り込ませ、唾液を吸い上げる。
「ダメっ……」
その言葉さえも甘く響き、徐々に身体をソファに押し倒していく。
「道明寺っ、…んっ……くちゅ……やめ…て。」
完全にソファに押し倒した所で、真上から牧野を見下ろすと、
「それ以上したら怒るからねっ!」
と、濡れた唇が言う。
バカ、煽ってんじゃねーよ。
その唇を見て、そう思いながらもう一度顔を近付けた時、
コンコンとノック音がオフィスに響いた。
「失礼します」
と言って西田が入って来る。
そしてソファにいる俺達の体勢を見て、すぐさま
「失礼しました。」と退散しようとする。
それに、大声で牧野が叫んだ。
「西田さん待って!助けて下さい!」
出て行こうとしていた西田の体が、再びオフィス内に入る。
「副社長!」
「っ、西田、でけえ声出すな。」
「今すぐ牧野さんから離れてください!」
「あ?」
「いいから、今すぐっ、ソファから立ち上がってください。」
西田の剣幕に押され牧野から少し離れると、すぐさま俺の側から逃げ出し、西田の背中の後ろに回る牧野。
「大丈夫ですか?牧野さん。」
「はい、助かりました。」
「まさか、こんな事になってるとは。」
「西田さんが来てくれて良かったです。」
二人の会話を聞いてれば、完全に犯罪者じゃねーかよ俺は。
「おまえら、俺を犯罪者にすんじゃねーよ。」
「同意がなければ犯罪者になります。」
冷静に返す西田に俺は言う。
「あるに決まってるだろ!婚約してんだぞ俺たちはっ。」
:
:
それから20分後、
オフィスにコーヒーを持ちながら西田が入ってきた。
「牧野は?」
「仕事に戻っています。」
そう答えてデスクにコーヒーを置く西田。
そして、その場に立ったまま静かに俺に言う。
「副社長、もしかして記憶が戻られたのでしょうか?」
「いや。」
「では、牧野さんの事は思い出していないと?」
「ああ。」
俺の答えに少し黙った後西田が続ける。
「では、思い出していないけれど、牧野さんに襲いかかったのですか?」
「襲ったとか人聞きの悪い言い方すんじゃねーよ。普通に、…愛を確かめあった、的な?」
と、照れながら言う俺。
「副社長、牧野さんが好きなんですか?」
「あ?…いやー、まぁ、好きっつーか、婚約者なんだから、まぁ、」
「好きなんですね?」
「…ああ。」
怖いくらい真剣に聞いてくる西田に、素直に答えるしかない。
「牧野さんには?」
「一応、伝えてはある。」
「それでは、さっきのは、合意の元ではあるけれど、副社長が少しやりすぎた…と言う事で良いですね?」
「…まぁ、そういう事だ。」
オフィスでは止められていたのに、堪らずに襲いかかったのは反省するしかねえ。
「副社長、気をつけてくださいよ。」
「あ?」
「副社長は牧野さんに対して、いつもガツガツ行き過ぎますから、嫌われないよう程々に。」
長年俺の秘書として側にいる西田からの忠告だ。信憑性がありすぎる。
「過去にも?」
「副社長の場合、牧野さんとの出会いから最悪でしたし、いつも逃げ回る牧野さんを追いかけ回していました。その後も、実家に突然お邪魔したり、マンションの隣に引っ越したり…。」
聞けば聞くほど最悪な話ばかり。
逃げられてもおかしくない程のストーカーっぷりじゃねーかよ。
「マジでクズだな俺は。」
自嘲するしかねぇ。
すると、いつもは表情を崩さない鉄仮面の西田が、クスッと笑いながら言った。
「確かに強烈すぎるほどのアプローチでしたが、誰よりもまっすぐで、誰よりも潔かったからこそ、牧野さんを手に入れる事が出来たんだと思います。」
「でも、……忘れたんじゃどーしようもねーだろ。」
「いいじゃないですか。
副社長はどうしたって牧野さんに惹かれるんですから、それなら今のこの状況を楽しめば。」
「楽しむ?」
「ええ。
お二人はずっと遠距離恋愛でしたから、今が2度目の恋愛期だと思って楽しんでください。」
2度目の恋愛……か。
1度目の恋愛は紆余曲折だったらしい俺たち。
記憶を無くした事をマイナスだとしかとらえてなかったが、西田の言うとおりかもしれない。
牧野と2度目の恋愛を……。

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コメント
西田さん 良い仕事してますねぇ
流石(ながれいしby司くん) 敏腕秘書ですね
困ったときの西田頼みです。