総務課の牧野さん 16

総務課の牧野さん

いつもより帰りが遅くなった今日、マンションのエレベーターを下りて部屋の前までいくと、ねーちゃんが誰かと話してるのが目に入った。

すごく背の大きい男の人。
後ろ姿だけでもセールスの人ではないと人目で分かる品のいいスーツ。

「お客さん?」
そう声をかえたら、突然闘争モードで俺のことを見てくるこの人。

俺のことを完全にねーちゃんの彼氏だと勘違いしてるらしい。
表に出ろって…………。
もし俺が本当にねーちゃんの彼氏なら、その言葉は俺が言う台詞じゃないだろうか。

そんなことを思っていると、突然ねーちゃんが
「支社長っ!」と叫び俺とこの人の間に入ってくる。

それでやっと理解した。
この人はねーちゃんのところの支社長だ。
テレビや雑誌で何度か見たことがある。

そんな人がなぜうちに?
そして俺のことを彼氏だと勘違いして表に出ろって言うってことは…………、
そうか、最近のねーちゃんの朝帰りはこの人が原因か…………。

「弟、……悪かったな。」

「いえいえ。」
リビングに招き入れて二人で胡座をかいて座ると支社長が言ってきた。
そして、ねーちゃんには聞かれたくないのか、
「おまえはお茶でも淹れてこい。
ゆっくりでいいぞ。」
と分かりやすく遠ざける。

そして、ねーちゃんが口を尖らせながら、キッチンに消えたのを確認して真っ直ぐに俺を見た。

「あいつ、ほんとに付き合ってるやついねーんだな?」

「……たぶん。」

「たぶんって何だよ。」

「いや、最近時々朝帰りはしますけど……」

「いつだ?」

「1週間くらい前と、昨日。」

「……それなら問題ねぇ。」
相手が自分だと白状してるようなもの。

小さなテーブルを挟んで正面に座るこの人は、男の俺ですら目が離せないほどかっこいい。
端正な顔はもちろん、低く響く声も、スーツの上からでも分かる筋肉質な体型も、
頭のてっぺんから足の先まで……っていうのはこういうことを言うんだなぁと思ってしまう。

「二人姉弟か?」

「はい。」

「仲良いんだな。」

「えぇ、まぁ。」

「おまえのねーちゃんってどんなやつ?」
唐突の質問。でも、この人は綺麗事を聞きたい訳じゃないだろうなぁと感じる。

「口が悪くて、がさつで、乱暴で、弟の俺なんていつもやられっぱなしですよ。」
そう答えると、

「分かる。」
そう言ってすごく綺麗に笑う。

「でも………、すごく家族想いです。
今までずっと家族のために自分を犠牲にして頑張ってきてくれました。
だから、自分は強くいなくちゃって、思ってるみたいですけど、本当は涙もろいし、お化けも怖いし、一人でジャムの蓋も開けられないほど弱いところもあります。
すごく女らしくて可愛い姉ですよ。」
思ったことをそのまま口にした。
嘘もついてないし、上乗せもしていない。

すると、
「なんか面白くねぇ。」
と不機嫌になるこの人。

「え?」

「可愛いとか他の男に言われるのはすげー気に食わねぇ。」

「俺、弟ですよ?」

「弟でも、男だろっ。あいつのこと今後一切可愛いとか言うな、思うなっ、分かったか?」

プッ…………あははははーーー。
耐えきれなくて思いっきり笑いだした時、

「随分楽しそうじゃない。
さっき会ったばかりの初対面なのに、よくそんなに話がはずむねっ。」
そう言ってねーちゃんがお茶を持ってきた。

そして、俺とこの人の前にお茶を置くと、
「用がすんだらそろそろ帰ったらどうですか?」
と意地悪なことを言う。

それを見て俺は慌てて言う。
「ねーちゃんっ!
俺、まだ支社長と話しの途中だから、ねーちゃん、なんかコンビニでつまめるもの買ってきてよ。」

「はぁ?」

「だって、お茶だけなんて失礼でしょ。
あれ買ってきてよ、俺の好きなチーズの。」

「……もうっ、なんであたしが。
…………わかったわよっ。」

そう言って、ねーちゃんが俺を睨みながらも、立ち上がろうとした瞬間、
ねーちゃんの腕をパシッと掴んだこの人が

「バカっ、こんな遅くに一人で行かせられるかっ。…………弟、またな。今日はこれで帰る。今度はゆっくり話そうぜ。」
そう言ってねーちゃんを連れて玄関まで歩いてく。

「えっ?なに、あたしも?」
そんな焦ったねーちゃんの声が聞こえてきて、

「あたりめーだろ。
チーズの、買うんだろ?行くぞ。」
嬉しそうなあの人の声が続いた。

あの人がねーちゃんの彼氏なのか否なのかは、結局分からなかったけど、
少なくとも、あの人の気持ちはビシビシと伝わった。
弟の俺にまで嫉妬するってどんだけなんだよ。

でも、あれぐらいグイグイ来てくれる人の方が、ねーちゃんにはいいのかも。
俺は今日初めて会ったばかりだけど、猛烈にあの人を応援する。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しております。応援お願いしまーす♡

コメント

タイトルとURLをコピーしました