すごい怒った顔でフロアを立ち去った支社長。
「なになに~?」
「また何かやらかして怒らせた?」
もう心配するよりも好奇心が勝ってる同僚たちに絡まれるなか、あたしは昼休憩に入ることにした。
はぁーーー。
せっかく頭から昨夜のことを追い出したのに、あの人はズカズカと無断で入り込んでくる。
そして、あっという間にあたしの心を乱していく。
手首におさまった腕時計を見て、一人食堂でジタバタするあたし。
そんなあたしの携帯が突然鳴り出した。
画面を見ると、滋さん。
「もしもし?」
「つくし~滋ちゃんでーす。」
「はいはい。」
相変わらずテンション高めの滋さん。
「今日、夜会えない?」
「今日ですか…………。」
昨夜もあまり寝てないあたしは返答に詰まる。
「この間はよくもあたしを置いて帰ってくれたよね、つくし。罰としてご飯くらい付き合いなさいよ。」
この間のことを持ち出されたらイヤとは言えない。酔った滋さんをあの場に置き去りにしたことはいくら『事情』があったとはいえ友達として酷すぎる。
「わかりましたよー滋さん。」
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滋さんとの待ち合わせは、あたしの通勤途中にあるカフェレストラン。
お酒を飲まない日は、こういうところで二時間くらいおしゃべりして解散するのがあたしたちのいつものパターン。
今日もパスタを注文したあたしたちは、いつものようにくだらない話に盛り上がって時間が過ぎていった。
そして、食後のコーヒーが運ばれてきた頃、滋さんが唐突に聞いてきた。
「つくし、司とは何かあったの?」
「っ!……な、何かって……」
あまりに突然の質問で、飲んでたコーヒーをこぼしそうになるあたし。
「二人で消えたんだって?」
「えっ、……そんなんじゃないって。」
「そう?」
「そだよ。」
あくまでもしらを切るあたし。
すると、
「なーんだ。やっと司もその気になったかと思ったのに……。」
となんだか意味深な滋さんの発言が気になる。
「その気って?」
「ん?んーまぁー、つくしになら言ってもいっかぁ。
実はね、司って昔の女で忘れられない人がいるらしくて、ここ何年も恋愛すらしてないのよ。」
「忘れられない人……?」
「そう。どんな風に別れたかは話したがらないんだけど、今でも気になってるんじゃないかな……。だから、本気の恋愛が出来ないんだってあきらくんたちも心配してて。
だけど、つくしとこの間二人で消えたって聞いて、もしかしたら司の心も動いたのか?って期待したんだけど。」
本気の恋愛が出来ない…………かぁ。
確かにそうなのかもしれない。
あたしみたいな都合のいい女はいるけど、心は昔の彼女を今でも愛してる。
あぁ、勘違いする前でよかった…………。
「滋さん、ありがとね。」
「え?……つくし?」
滋さんと別れて、すごくすっきりした気持ちでマンションに帰ったあたし。
2度、いや四年前を含めると3度過ちを犯しちゃったけど、もう大丈夫。
支社長とはもう個人的に接触することはお互いのためにもやめよう。
そう心に決めた直後、マンションのベルが鳴った。
「はいはーい。」
てっきり進だと思ったあたしは、なんの確認もせず扉を開けた。
すると、そこには今もう会わないと誓ったはずのこの人。
「よおっ。」
「え?」
固まるあたしに、
「話付けにきた。今、彼氏いるのか?」
と、とんちんかんなことをいう。
「……彼氏?…………え?」
「いるのか?」
「……いない。」
「いつ帰ってくる?」
「……………」
そんな噛み合わない会話をしてるあたしたちの後ろで、
「お客さん?」
と、最悪のタイミングで進の声。
「あーーーっ、うん。えーっと、」
ごもごもするあたしは必死に言葉を探してるのに、支社長はこういうときでさえ直球すぎる。
「おまえが彼氏か?」
「へぇ?」
「話がある、表に出ようぜ。」
「表?話って……俺にですか?」
「おまえ以外誰がいるんだよっ。」
「え?でも……。」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよっ。
とにかく、男同士で話そうぜ。」
「支社長っ!ちょっと誤解……」
見かねたあたしが口を挟もうとしたとき、
「えっ!!支社長なんですか?ねーちゃんどういうこと、説明してよ!」
「……あ?ねーちゃん?」
「あ、どうも。牧野つくしの弟です。
姉がいつもお世話になってます。」
どこまでも話が噛み合わないあたしたち……。
進が気をきかせて支社長を部屋に招き入れた。
最初はバツが悪そうにあたしと視線を合わせなかった支社長だったけど、すぐに方向転換したのか進と仲良くリビングで話してる。
あたしは……というと、
なぜか
「お茶でも淹れてこい」って支社長に命令されて、キッチンにいる。
「男同士の話があるんだよっ。」だってさ。
さっきまで表に出ろとかいってたくせにっ。
自分の部屋みたいにくつろいでる支社長を見ると、人の気も知らないでって、腹が立つっ!
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