立川会長の娘との会食はきっちり2時間で切り上げた。
それ以下なら失礼にあたるだろうし、それ以上なら変な期待を持たせることになる。
席を立つ間際、「また会えますか?」
と聞かれ、はっきりと伝えた。
『気になる女性がいるので』と。
邸に戻り、エントランスへ行こうとした足を中庭へとむける。
ローズガーデンの奥にあるベンチに座ると、携帯を取り出ししばらくそれをじっと見つめたあと、ボタンを押した。
3コール目で繋がる。
「もしもし?」
「俺だ。」
「…道明寺、どうしたの?」
戸惑ったような牧野の声。
「業務連絡しろって言ったのはおまえだろ。」
「えっ、でも、メールでって」
「どっちでもいーだろ。」
本当は、どっちでもよくなんかねぇ。
声が聞きたかった。
「食事は終わったの?」
「ああ。もう邸に戻ってきてる。」
「お疲れ様。」
そう言った牧野の声にかぶさるようにして、
「姉ちゃん!」
と、男の声が聞こえた。
「……弟か?」
「あっ、うん。用事があってたまたま来てたの。電話中だったの知らなかったみたい。」
「おまえ、弟いるんだな。」
何気なく言った言葉に牧野がおかしそうに笑う。
「なんだよ。」
「だって、弟の事も忘れちゃったのかなーって。
道明寺と進、意外と仲良しだったんだけどな。」
「…マジかよ。」
「うん。なぜか気が合ってたの。」
話を聞いてもピンとこないということは、弟の記憶も俺にはないらしい。
「なぁ、……牧野。」
「ん?」
「今度、弟に会いに行く。」
「え?」
「何か思い出すかもしれねーだろ。」
「…うん。」
そう牧野が答えたあと、沈黙が続き一気にお互い恥ずかしさがこみ上げてきた。
「もう、寝るねっ。」
「おう。明日遅刻するなよ。」
「分かってる。じゃあ。」
「じゃあな。」
そう言って電話を切ったあとも、耳の奥がしばらくじんじんと熱かった。
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それから2週間ほどたったある日、
オフィスに行くと西田から
「牧野さんは、今日と明日お休みするそうです。」
と突然告げられた。
「どうした、風邪か?」
「いえ、ちょっとご家族に不幸があったそうで。」
「あ?聞いてねーぞ。」
家族と言えば両親と弟しかいない。
もしかすると、離れて暮らす祖父母に不幸があったのだろうか。
「私も詳しくは聞いていないのですが、落ち着いたら連絡するとだけ話してましたので。」
そう言ってオフィスを出ていく西田。
上司として顔を出すべきだろうか。
でも、婚約者でもある俺が行って、誰の顔も見分けられなかったらあいつに辛い思いをさせるだろうか。
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結局、ジリジリと悩んだ末、2日目の夜牧野の実家へと足を運んでいた。
住所を調べて来てみると、なぜだか懐かしいような気持ちになる。
きっと、俺は何度もここを訪れたことがあるんだろう。
何か思い出さないだろうかと、ゆっくり家の周囲を歩いてみると、
突然、「道明寺?」と呼ぶ声。
振り向くと、牧野が立っていた。
「ここで何してるの?」
「いや、……」
「もしかして、あたしに会いにきた?」
「いや、たまたま通りかかっただけだ。」
思わずそう言っちまった俺に、
「あっそう。じゃあね。」
と、牧野が立ち去ろうとしやがる。
その腕を咄嗟に捕まえて引き止めると、
「大丈夫か?」
と、今度は真剣に聞いた。
「ん?何が?」
「家族に不幸があったって、西田から聞いた。」
「へ?」
「まさか、両親じゃないよな?」
そう言う俺の顔を牧野は何も言わずじっと見つめたまま。
そして、たっぷり間が空いたあと、
「何言ってるの道明寺。」
と、首を傾けながら聞く。
「不幸があったんじゃねーのかよ。」
「あったけど……、」
「誰が亡くなった?」
「誰って…、インコ。」
「あ゛?」
「西田さんにうちのインコが死んだ話はしたけど、その事?」
「インコ?
牧野、おまえが2日間仕事休んだ理由は?」
「えっとー、西田さんにうちのインコが死んだから動物墓地にいれに行くって話をしたら、それなら久しぶりにゆっくり休暇を取ったらいいって言ってもらって…。」
「不幸って…」
「インコのピー助。」
「ったく、紛らわしい言い方すんじゃねーよっ!!」
思わず空を見上げて思いっきり怒鳴った俺に、
「そんな怒らなくてもいいでしょ。」
と、困った顔の牧野。
「ちげーよ。おまえに怒ったわけじゃねえ。
西田のヤロー、覚えておけよっ。」
牧野の話を聞いて、一気に緊張がとけた。
家族に不幸があったと聞いて、こいつが悲しんでいるんじゃないかと気になっていたから。
「おまえ、なんで外にいた?」
「あっ、コンビニに行こうと思って。」
「行くぞ。」
「えっ?
ちょっと、待ってよ道明寺っ!」
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コメント
策士 西田さん
(でもGoodJob!)
うちの西田さんはいつも策士です笑