無敵 5

無敵

あの会食から2週間たった頃、立川会長からメールがきた。

『若い二人で一度食事でもいかがでしょうか。』
と、娘との会食を打診するメール。
金曜の夜の時間と場所まで指定されている。

立川会長に会って断りをいれようか。
それとも、娘に会って直接その気はないと伝えた方が早いか。

悩んだ末、直接伝えることにした俺は、牧野がいない時を狙ってオフィスに入ってきた西田に
「金曜の夜、スケジュールを空けて欲しい。」
と伝えた。

「どうかされましたか?」

「立川氏と会うことになった。」

「それでは、和食のお店を予約しましょうか?」

「いや、…店は先方で決めたらしい。」

「何時からどちらに?」

「8時に成城の、」

そこまで言った俺に、勘のいい西田が言う。
「もしかして、立川会長ではなく里奈子さんとですか?」

「……ああ。」

「了解しました。」

顔色変えずに手帳に書き込んでいく西田。
何も後ろめたい事はないはずなのに、なぜか気まずい。

と、その時ノック音がして牧野が入ってきた。

「法務部から急ぎの書類が届いています。」
と言ってデスクに書類を置いたあと、オフィスを出ていこうとする。

その背中に西田が声をかけた。

「牧野さん。」

「はいっ。」
慌てて振り向く牧野。

「金曜のスケジュールが変更になりました。
副社長のスーツの準備、お願いします。」

「あっ、はい。」

ポケットから小さなメモ帳を取り出し書き留める牧野に、西田が更に言う。

「8時から立川里奈子さんと会食が入ります。
仕事ではないので、いつもよりカジュアルなスーツを用意してください。」

「……はいっ。」

一瞬、固まったように見えた牧野。
すぐに頭を下げて部屋を出ていく。

つい数日前に西田と牧野がしていた会話を思い出し、苦いものがこみ上げる。

「西田。」

「はい。」

苛めんな。
そう口から出そうになった言葉を飲み込んで、

「いや、なんでねぇ。」
と俺は言った。

約束の金曜日、午後6時。
そろそろ準備をしてオフィスをでる時間だ。

オフィスの奥にある小部屋に行くと、鏡の前にスーツが2着掛けられている。
どちらも邸に保管してあったスーツで、カジュアルな物を牧野が選び持ってきたらしい。

どちらを着ていこうか迷っていると、
オフィスにノック音が響いた。

「副社長?」
牧野が俺を呼ぶ声。

「奥にいる。」
そう答えると、近付いてくる足音がする。

そして、小部屋の前に来ると、
「そろそろ時間なので準備してください。」
と言う。

「おう、分かってる。」

「準備が出来たら内線で呼んでください。」
そう言った後、出て行こうとする牧野を呼び止めていた。

「牧野っ」

「はい?」

「どっちが似合う?」

「え?」

「だから、どっちのスーツが似合う?」

突然聞かれて固まる牧野。
そのあと、ゆっくり2着のスーツに近付き、
俺とスーツを交互に見比べて言った。

「こっちのグレーの方が似合うと思う。」

グレーのスーツを指差してそう言う牧野に俺は言う。

「じゃあ、こっちの紺のスーツで行く。」

「えっ!?」

驚く牧野を横目に、紺のスーツのジャケットを羽織る。

「グレーが似合うって言ったのに。
どうせ、あたしのアドバイスは聞かないんでしょ。」

そう言って拗ねる牧野。
予想した通りの反応に顔が緩む。

「アドバイス通りにしただろ。」

「ん?」

「似合うスーツを着ていく必要ねぇから。」

「…どういう事?」

「今日行くのはただの付き合いだ。
今後、二人で会う気はないと伝えてくるだけ。
だから、……」

心配するな。
と言ってやりたいのに、この口は素直にならない。

「格好良すぎたら困るだろ。」

「はぁーっ?」

呆れたように俺を見上げるこいつの頭を、
無意識にグシャっと撫でてやる。

すると、ビクッとこいつが固まった。

「…牧野?」

「道明寺、これ……」

「あ?」

「頭、こうして触るの、あんたの癖で、」

無意識に本能で手が勝手に動いたのだ。
牧野の目にうっすら涙がたまる。

「わりぃ。思い出した訳じゃねーんだ。」

「うん、分かってる。」

無理矢理笑顔を作ろうとするこいつに胸が痛む。

「道明寺。」

「ん?」

「一つだけ、わがまま言ってもいい?」

「…なんだよ。」

泣かした詫びに聞いてやる。

「今日、会食が終わったらメールして。」

「メール?」

「…うん。今終わったって業務連絡してください。」

俯きながらそう言う牧野は、やっぱり今日の会食を気にしているのだろう。

「ああ。業務連絡、必ずする。」

俺はそう言ってもう一度だけ軽くこいつの頭に触れた。

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司一筋

コメント

  1. ともハート より:

    無意識に頭をクシャッと触れる司に
    キュンとしちゃいました♡
    早く思い出してくれないかなぁ( *´艸`)

  2. はれこ より:

    記憶をなくしていても やっぱり司くんはつくしちゃんが好き(^.^)

    ブログ村のランキング1位!
    自分のことでなくても嬉しいです。
    やったぁ
    いつも楽しませてくれてありがとうございます。

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