無敵 4

無敵

日本に戻ってきて半年。
ようやく副社長として仕事もスムーズに進み始めた。

日本企業のトップとも顔を合わせる機会も増え、ババァ抜きで個人的に会食に誘われることも最近はよくある。

今日も〇〇コンサルの立川会長と会食の約束がある。
事前に店の予約も済ませ、会長の好みのワインも調べてある。

だから、俺的にはなんの問題もないんだが、朝から一人緊張した顔の奴がいる。

「店の予約の確認はしたか?」

「はい。さっき電話しました。
午後7時からお二人で予約しています。
ど…、副社長がおっしゃったワインも店の方に伝えてあります。」

いつもの『道明寺』呼びが出そうになって慌てて『副社長』と呼び変える牧野。

「緊張するな。」

「でも、」

「西田がいてもいなくても変わんねーし。」

「あたしにとっては重大だし。」

そう、今日は西田が体調を崩して会社を休んだのだ。
いつも秘書業を西田に教えてもらっていたこいつが、今日はすべて一人で仕切らなくてはならない。

しかも、今日は大事な会食がある。
それで、朝からガチガチに緊張してるこいつ。

会食にはいつも西田が付いてきていた。
けれど、店に入るのはいつも俺一人。
今日もいつもどおりの流れを牧野に伝える。

「会食には俺一人で行くから大丈夫だ。
おまえは店の外の車で待機してろ。
ある程度会食が進んで問題なければ連絡するから、そのまま帰宅していい。」

「…はい。」

コクコクと何度も頷くこいつがおかしくて、顔がニヤけてる俺にも気付かない牧野は、

「大丈夫。大丈夫。」
と自分に言い聞かせながらオフィスを出ていった。




約束の時間の15分前に店の外に到着した俺たち。
早めに入って出迎えようとしていたにも関わらず、立川会長の車もすぐ後ろに到着した。

「行ってくる。」
牧野にそう告げて車を降りようとしたとき、

「道明寺っ。」
と、後部座席に並んで座る牧野が俺の手を掴んで呼んだ。

「あ?」

「あれ、見て。」

牧野が指差す方を見ると、立川会長の隣に若い女が並んで立っている。

「予約は?二人のはずだよな?」

「うん。〇〇コンサルの秘書の方からも会長と二人でって。」

「西田に確認しろ。」

「はい。」

急いで電話をかける牧野。
牧野と西田の会話の様子から、立川会長が自分の娘を同伴させて来たらしいと分かった。

どうやら、今日は仕事の話だけでは済まないようだ。
時計を見ると、約束の時間まであと8分。

電話を切った牧野が、
「すみません。きちんと確認しておけば…、」
と、頭を下げる。

「おまえのせいじゃねーよ。」

「でも、」

「行ってくる。」
俺はそう言って車を出た。



昨夜の会食は案の定、仕事の話が2割、プライベートが8割といったお粗末な内容だった。

翻訳の仕事をしているという娘は、日本とニューヨークを行き来しながら生活していて、俺のライフスタイルにぴったりだと遠回しにアピールしてくる親ばかっぷり。

才色兼備だと娘を自負するだけあって、確かに美人ではある。
あきらや総二郎ならすぐに食いつくお宝なのかもしれない。

それなのに、俺は何も感じない。
唯一、付き合っていたらしい女といえば、
あのどこにでもいそうな牧野。

俺の女のタイプはどうなってるんだ?と首をひねりたくもなる。

そんな事を考えながらオフィスまでの廊下を歩いていると、秘書室から今頭に浮かんでいた女の声が聞こえてきた。

「こういう事ってよくある事なんですか?」

「いえ、…まぁ、否定はしません。」

「そうですか。」

西田と牧野の会話が聞こえてくる。
仕事の話だろうか。

「副社長は仕事だけでなく外見も完璧な方ですから、やはり昨日のような顔合わせというのは少なからずあります。」

「です…よね。
昨日の方も、凄く綺麗な方でした。」

「あっ、でもっ、副社長は1度も揺れたことは無いですよ!いつだって牧野さんの事を、」

「いいんです。
西田さん、ありがとうございます。」

「いえ、なんだかすみません。」

「西田さんが謝らないでください。
ただ、ちょっと思っただけなんです。
今の道明寺はあたしの記憶がないし、もしも道明寺が気にいる人が現れたら…、」

「牧野さん、」

「…はい」

「もう少し待ちましょう。
副社長を信じて、もう少し待ちましょう。」

二人の会話を聞いたあと、オフィスに戻りデスクにつくと、俺は深く息を吐く。

こういう時に感じるこの感情はなんだろう。

呑みに行くと行ったときに見せた寂しそうなあいつの顔。
家につくまで電話で話した時のあいつの声。
そして、今、嫉妬してるかのようなあいつの会話。

すべて妙な感情に襲われる。
例えて言うなら、
あいつを壁に追い詰めて、俺だけを見つめて言わせたい。

「好きだ」と。

そんな独占欲の塊みたいな感情が沸き起こる。

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コメント

  1. もーん より:

    新作も早速面白くて、無敵っていうタイトルってどういうとこに繋がるのか、楽しみに読んでます!

  2. 葉月 より:

    こんばんは(#^.^#)

    忙しく今日まで気が付かずいっきに4話読みました。
    いっきに読めて得した気分です。

    司記憶をなくしてもやっぱりつくしだね~~
    早く思い出せ( ;∀;)

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