日本に戻ってきて半年。
ようやく副社長として仕事もスムーズに進み始めた。
日本企業のトップとも顔を合わせる機会も増え、ババァ抜きで個人的に会食に誘われることも最近はよくある。
今日も〇〇コンサルの立川会長と会食の約束がある。
事前に店の予約も済ませ、会長の好みのワインも調べてある。
だから、俺的にはなんの問題もないんだが、朝から一人緊張した顔の奴がいる。
「店の予約の確認はしたか?」
「はい。さっき電話しました。
午後7時からお二人で予約しています。
ど…、副社長がおっしゃったワインも店の方に伝えてあります。」
いつもの『道明寺』呼びが出そうになって慌てて『副社長』と呼び変える牧野。
「緊張するな。」
「でも、」
「西田がいてもいなくても変わんねーし。」
「あたしにとっては重大だし。」
そう、今日は西田が体調を崩して会社を休んだのだ。
いつも秘書業を西田に教えてもらっていたこいつが、今日はすべて一人で仕切らなくてはならない。
しかも、今日は大事な会食がある。
それで、朝からガチガチに緊張してるこいつ。
会食にはいつも西田が付いてきていた。
けれど、店に入るのはいつも俺一人。
今日もいつもどおりの流れを牧野に伝える。
「会食には俺一人で行くから大丈夫だ。
おまえは店の外の車で待機してろ。
ある程度会食が進んで問題なければ連絡するから、そのまま帰宅していい。」
「…はい。」
コクコクと何度も頷くこいつがおかしくて、顔がニヤけてる俺にも気付かない牧野は、
「大丈夫。大丈夫。」
と自分に言い聞かせながらオフィスを出ていった。
:
:
:
約束の時間の15分前に店の外に到着した俺たち。
早めに入って出迎えようとしていたにも関わらず、立川会長の車もすぐ後ろに到着した。
「行ってくる。」
牧野にそう告げて車を降りようとしたとき、
「道明寺っ。」
と、後部座席に並んで座る牧野が俺の手を掴んで呼んだ。
「あ?」
「あれ、見て。」
牧野が指差す方を見ると、立川会長の隣に若い女が並んで立っている。
「予約は?二人のはずだよな?」
「うん。〇〇コンサルの秘書の方からも会長と二人でって。」
「西田に確認しろ。」
「はい。」
急いで電話をかける牧野。
牧野と西田の会話の様子から、立川会長が自分の娘を同伴させて来たらしいと分かった。
どうやら、今日は仕事の話だけでは済まないようだ。
時計を見ると、約束の時間まであと8分。
電話を切った牧野が、
「すみません。きちんと確認しておけば…、」
と、頭を下げる。
「おまえのせいじゃねーよ。」
「でも、」
「行ってくる。」
俺はそう言って車を出た。
:
:
:
昨夜の会食は案の定、仕事の話が2割、プライベートが8割といったお粗末な内容だった。
翻訳の仕事をしているという娘は、日本とニューヨークを行き来しながら生活していて、俺のライフスタイルにぴったりだと遠回しにアピールしてくる親ばかっぷり。
才色兼備だと娘を自負するだけあって、確かに美人ではある。
あきらや総二郎ならすぐに食いつくお宝なのかもしれない。
それなのに、俺は何も感じない。
唯一、付き合っていたらしい女といえば、
あのどこにでもいそうな牧野。
俺の女のタイプはどうなってるんだ?と首をひねりたくもなる。
そんな事を考えながらオフィスまでの廊下を歩いていると、秘書室から今頭に浮かんでいた女の声が聞こえてきた。
「こういう事ってよくある事なんですか?」
「いえ、…まぁ、否定はしません。」
「そうですか。」
西田と牧野の会話が聞こえてくる。
仕事の話だろうか。
「副社長は仕事だけでなく外見も完璧な方ですから、やはり昨日のような顔合わせというのは少なからずあります。」
「です…よね。
昨日の方も、凄く綺麗な方でした。」
「あっ、でもっ、副社長は1度も揺れたことは無いですよ!いつだって牧野さんの事を、」
「いいんです。
西田さん、ありがとうございます。」
「いえ、なんだかすみません。」
「西田さんが謝らないでください。
ただ、ちょっと思っただけなんです。
今の道明寺はあたしの記憶がないし、もしも道明寺が気にいる人が現れたら…、」
「牧野さん、」
「…はい」
「もう少し待ちましょう。
副社長を信じて、もう少し待ちましょう。」
二人の会話を聞いたあと、オフィスに戻りデスクにつくと、俺は深く息を吐く。
こういう時に感じるこの感情はなんだろう。
呑みに行くと行ったときに見せた寂しそうなあいつの顔。
家につくまで電話で話した時のあいつの声。
そして、今、嫉妬してるかのようなあいつの会話。
すべて妙な感情に襲われる。
例えて言うなら、
あいつを壁に追い詰めて、俺だけを見つめて言わせたい。
「好きだ」と。
そんな独占欲の塊みたいな感情が沸き起こる。
にほんブログ村
↑ランキングに参加しております。応援お願いしまーす♡
コメント
新作も早速面白くて、無敵っていうタイトルってどういうとこに繋がるのか、楽しみに読んでます!
ありがとうございます!どうぞお付き合いお願いしまーす♡
こんばんは(#^.^#)
忙しく今日まで気が付かずいっきに4話読みました。
いっきに読めて得した気分です。
司記憶をなくしてもやっぱりつくしだね~~
早く思い出せ( ;∀;)
ありがとうございます!忙しくても、来て頂けるだけで感謝です♡