ただでさえ、会うのに勇気がいるというのに、あの超絶不機嫌な顔を見せられて、普通に出来る人がいるんだろうか。
支社長室のあるフロアまでのエレベーター内で、
あたし、もしかしたらクビになるのかな、
それとも下請け会社とかに出向させられるとか。
いやいや、まさか一夜の過ちだけでそんなことになる?でも、あの支社長ならやりかねないかも。
そんな想いが頭をグルグル駆け巡る。
どんなに考えても答えなんて出るはずもなく、エレベーターがフロアに到着した。
ゆっくりと支社長室に向かって廊下を歩いていると、突然オフィスから支社長と西田さんが出てきた。
そして、あたしに気付いた支社長が、
「わりぃ、会議の時間だ。
俺のデスクに忘れ物が届いてるから持っていけ。」
そう言って同じフロアの会議室に入っていった。
廊下に残されたあたしは、心底ホッとしていた。
面と向かって何を話せばいいのか分からないし、かといってこのまま黙ってとぼけるわけにもいかない。
だって、…………
どんなに酔ってたからと言って、あたしからキスした事実は消したくても消えないから……。
あいつに、忘れ物を今すぐ取りに来いと伝えたのに、ノックとともに俺のオフィスに入ってきたのは秘書の西田だった。
「支社長、皆さんお揃いです。」
「チッ……わかった。」
タイミングがわりぃ。
ちょうど会議の時間と重なった。
オフィスを出て廊下を歩くと、エレベーターからあいつが降りてこっちに歩いてくるのが見えた。
「わりぃ、会議の時間だ。
俺のデスクに忘れ物が届いてるから持っていけ。」
西田の手前、それ以上話すことも出来なく、俺は重役が待つ会議室に入った。
会議には全員揃っていたが、大型モニターに会議資料を映すのに手間取っているらしい。
なかなか画像が映りこまない。
オヤジたちが俺の顔色を伺いつつ、焦っているのがわかる。
俺はそれを見て、
「西田、すぐ戻る。」
そう言って足早にオフィスへと向かった。
もうあいつはいないかもしれねぇ。
けど、まだいるなら…………。
焦る気持ちでオフィスの扉を開けると、ちょうど目の前に部屋を出ようとしていたこいつと鉢合わせた。
「きゃっ」っと驚くこいつの肩を掴み扉を閉めると、その扉にこいつの背中を張り付けた。
「……昨日は…………すいませんでした。」
下をむき、消え入りそうな声で呟くこいつ。
その首には至近距離なら分かる隠しきれていない赤い痕。
それが俺がつけたものだと思うだけで、体が熱くなる。
「体、辛くねーか?」
ベッドの上で聞くはずだったその台詞を恐る恐る聞くと、
「……ん、はい。二日酔いの薬飲んできたので。」と的はずれな答え。
その答えがおかしくて、
「プッ……ちげーよバカ。」
そう言って笑ってやると、やっと顔をあげて俺を見た。
目が合うと、思い出す。
昨日の蕩けるキスのこと。
手に馴染む柔らかい二つの膨らみ。
必死に堪える甘い声。
そして、俺に絡み付くこいつの内部。
俺はスカーフの隙間から見えている赤い痕を指でなぞりながらもう一度聞く。
「辛くねぇか?」
たぶん、やっと俺の言った意味を理解したんだろう、こいつは真っ赤になって目線をそらした。
その反応がまた俺を刺激する。
もう一度、その唇を味わいたい。
逃げる舌を追いかけて、綺麗に並ぶ歯列をなぞり、もうダメ……と言わせたい。
その欲望のままに、至近距離を縮めてキスをしようとしたその時、こいつの背中の扉がトントンと静かに鳴った。
「支社長、準備が整いました。」
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