総務課の牧野さん 6

総務課の牧野さん
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朝帰りした俺を
「どこでだれと遊んでたら、こんな時間になるんですか?」
と、タマの嫌みが出迎えた。

それを聞き流して自室に戻ると、手早くシャワーを済ませ新しいスーツに着替える。
肩の辺りに少しだけ違和感を感じて手でなぞると、かすかに引っ掻いたキズがあり、一気にまた昨夜の記憶に引き戻される。

朝起きた瞬間から、何かをする度に思考があいつに引き戻されて、そのたびに顔が熱くなる。
それどころか、変なところにまで熱が集まって、
中学生かっと自分に突っ込みをいれる始末。

会社に行ったらあいつに会いに行こうか。
それとも、あいつから何か言ってくるか。
こんなとき、携帯の番号でも、いやメールのアドレスでも知っていれば使えるのに、俺はあいつの事をなにも知らねぇ。
滋に聞くのが早いのは分かってるけど、それをするのはすべてを白状するのと同じくらいリスクが高い。

会社に着いてからも、そんなことで頭はグルグル回ってる俺に、西田が聞いてきた。

「支社長、何かございましたか?」

「あ?」

「何か考えごとでも……?」

「……いや、別に。」

「いつもの癖が出てらっしゃいます。」

そう言われて気付く。
右手でクルクルとペンを回す癖。
考えごとや迷ってる時にやっているらしい。

俺はその回していたペンを見つめる。
べっこう柄のそのボールペン。
何かのお祝いにでも送られたんだろうそのペン。
あの日から俺のものになり、肌身離さず持っていたそれを見つめながら、
「どうしてどいつもこいつも同じなんだよ。」
と呟いていた。

そんな俺を突然アポなしで訪問してくるやつといえば、こいつ。

「司、仕事中?」

「ああ。この時間に仕事してねぇのはおまえぐらいだよ、類。」

「酷い言い方だね。これでも、仕事中なんだけど。」

「どこがだよ。」

「道明寺HD日本支社長にご挨拶だよ。」

「うるせー。」

一通り言い合ったあと、いつもならソファに勝手に座ってコーヒーでも飲んでいく類なのに、今日は俺のデスクの方まで寄ってきて、デスクにドンと何かを置いた。

そして、
「忘れ物。」
そう一言だけ言ってニヤッと笑う。

それが何なのかは一瞬で分かったけど、出来るだけポーカーフェイスで言ってやる。
「俺のじゃねぇ。」

「司のではないけど、忘れさせた原因は司でしょ?それとも、滋に渡したほうがよかった?」
すべてを知っているかのように話す類。

「……いや、俺から本人に渡しとく。」

「そ?助かる。
何があったかは、今度詳しく聞かせてよ。
じゃ、俺忙しいから~。」

忙しいなんて嘘くせぇーけど、今、長居していかないだけこいつなりの優しさなんだろう。
デスクの上に置かれた、あの女のハンドバッグを見つめながら俺はチッと舌打ちをした。


「牧野さ~ん、内線3番。」

「はーい。」

「支社長からだけど……」

「えっ!」

ブンブン手と頭を振って小声で
「いないって言って!」
とお願いする。

5分後。

「牧野さん、内線。……また支社長だけど?」

ブンブン。「席はずしてるって言って!」

5分後

「牧野さん、支社長。」
受話器を持ったままの同僚、吉田さんが
涙目のあたしを見て、
「早退しました。」
と言ってくれた。

はずなのに、
………………、5分後
「牧野さんっ!」
また吉田さんが焦った声であたしを呼ぶ。

今度は何ですか?と顔を上げたあたしの目の前に、今日一番会いたくない人の顔。

「っ!……支社長。」

「早退したんだって?」
超絶怒った顔であたしの目の前に表れた支社長。

「いやっ、……えっと……」

「早退理由はその掠れた声か?」
掠れさせた張本人がしれっとそういうことを言うから、一気に顔が赤くなる。

「忘れ物が届いてるから支社長室に取りに来い。すぐ来ねーと処分するぞ。」

それだけ言ってフロア全員の視線を一心に集めたまま去っていく支社長。
残されたのは、かわいそうな目であたしを見つめる同僚たち。

「何したの?牧野さん。」

「一緒に謝りに言ってあげようか?」

「クビにはならないと思うから大丈夫よ。」

そんな皆に、
「自ら舌噛んで死ぬかも。」
そう言ってあたしは席をたった。

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