こんなビジネスホテルに泊まるのは、いや、ロビーに足を踏み入れることさえ、はじめてだった。
「出るぞ。」
あいつの手を握り、席に戻ることなく店を出た俺は、外に出て上を見上げた。
目的は一つ。
ここから一番近いホテルの看板を探すため。
数十メートル先に、ビジネスホテルの看板が目についた。
ふらつくこいつの腰に手を回し、そのホテルに急ぐ。
ホテルの入り口を通ったときかすかに何かを言ったような気がしたが、何も聞こえねぇふりをしてそのままフロントにむかい、
「一番広い部屋を」と鍵を受け取った。
そして、エレベーターにこいつを押し込んで、最上階のボタンを押したとき、
「支社長……。」と、困ったような顔で俺を見た。
俺はエレベーターが閉まるのを確認して、それ以上何も言わせねぇように、
…………キスをした。
「んっ…………はぁ…………」
狭い密室でくちゅくちゅと卑猥な音が漏れる。
最上階まで数分。
その時間さえも惜しい。
ガタンと軽い振動とともにエレベーターの扉が開くのを待って、俺はこいつから唇を離し、引っ張るように手を握って部屋の前に行く。
カードキーのピッという音と同時に部屋の扉を開け、こいつの体を押し込むと、やっと少しだけ体から力が抜けてくる。
薄暗いホテルの部屋。
扉の前に立ったままの俺たち。
今なら、まだ逃がしてやれるかもしれねぇ。
けど、そっと手を伸ばしてこいつの頬の温もりを指先に感じた俺は、どうしても手放すことが出来そうになかった。
その場で立ったまま覆い被さるようにキスをする。ちっせーこいつの頭を後ろから押さえるように上を向かせ、何度も何度も角度を変えながら口内を舐め回す。
「んっ……く……るしぃ…………」
夢中になりすぎて加減をしてやれねぇ俺に、訴えるように胸を叩いてくる仕草が可愛くて、
少しだけ笑みが漏れると、笑ったままキスをしてるのがバレたらしく、
「なんで…………笑って……るの……」
と強く胸を押し返してくる。
その仕草も、そのちょっと拗ねたような顔も、潤んだ目も、どれも全部が俺のツボで、
俺はこいつを抱き上げるとベッドへと運んだ。
焦る気持ちを抑えて、丁寧に丁寧に
抱いた。
久しぶりすぎて暴走しそうになる体を、なんとか必死に抑えて、このちっせー体に出来るだけ優しく俺のものを侵入させていく。
きつくしまったそこは、執拗に俺に絡み付いてきて何度も俺を飲み込もうとするが、そこから抜くのが惜しい俺は、時間をかけてゆっくりと快感を楽しんだ。
最後の方は、「もう……ダメ」と掠れた声で言わせるほど疲れさせたようで、俺のものを引き抜くと同時に、吸い込まれるように眠ったこいつ。
後処理をして時計を見るとちょうど12時。
あと六時間は寝れるだろう。
6時に起こせば、一度家に帰って女の支度でも仕事には十分間に合う。
俺は携帯のアラームをセットしたあと、眠るこいつを後ろから抱き締めて目を閉じた。
:
:
ピピピピ………………。
不快な機械音で目が覚める。
音のある方に手を伸ばし、それを止めるともう一度枕に頭を沈める。
………………。
ガバッ!
ベッドの上に起き上がった俺は、部屋のなかをキョロキョロと確かめるが、どこにも俺以外の気配がしねえ。
昨夜脱ぎ捨てた服も下着も靴も、残ってるのは俺のだけ。
「あぁーーーっ!ったく、どーすんだよ俺っ!」
かっこわりぃし、情けねぇ。
欲望のままに食い付いて、打ち付けて、吐き出した一連の行為が走馬灯のように甦る。
ちくしよー。
あいつ、酔いは冷めたのかよ。
体、辛くねぇのかよ。
俺がつけた首の赤い痕にちゃんと気付いてるのかよ。
目覚めたら言おうと思ってたそういう言葉をすべて飲み込んで、ベッドの上で深く息を吐いた。
逃げるなよ。
どんな顔して会えばいーんだよ、バカ女っ。
にほんブログ村
↑ランキングに参加しています。応援お願いします。
コメント