結局、あの女に押される形でカタログから家具を選んだ俺は、
「来週にすべて揃ってなければクビだからな。忘れるなよ。」
そう捨て台詞を残してオフィスをあとにした。
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その夜、邸でパソコンに向かっていた俺は
「ちくしょー」と呟いていた。
昼間、オフィスで広げていた資料をあのままあそこに置いてきちまったらしい。
あれがないと、この先の仕事が進まねぇ。
西田に持ってこさせようかとも思ったが、時計を見ると11時を回ってる。
もう一度「ちくしょー」と呟いた俺は車のキーを手にオフィスへ向かった。
道明寺HDビルの28階。
このフロアー全部が支社長である俺のスペース。メインオフィス、会議室、来客用の応接室、そして、仮眠やシャワーも浴びれるプライベートルーム。
そのすべてが、俺の支社長就任に合わせて用意させたものだ。
エレベーターを降りてまっすぐオフィスへ向かう廊下を歩いていると、ギシ……ガシャン……と妙な音が聞こえてくる。
音の出所は…………俺のオフィス。
こんな遅くに、まだ使われてもいねぇ俺のオフィスで誰だ……?。
そう思いながら、そぅーと扉を開けてみると、
俺の視線の先には脚立にのぼって何やら作業する作業員の姿……ではなく、あの女の姿があった。
「おまえ、何やってんだよ。」
突然の俺の呼び掛けに、
「わぁっ!!」
すげーでけー声で叫ぶこいつ。
「ど、ど、どーしたんですか支社長っ。」
「それは俺の台詞。人のオフィスで何コソコソやってんだよ。」
「コソコソって、人聞きが悪いっ。
で、電気の付け替えです。さっき注文した電気が届いたので。」
「それをなんでおまえが付け替えてんだよ。
そういうのは業者がやるんじゃねーの。」
「そーですよっ。普通ならそーですけど、
無理言ってこんな時間に届けてもらった挙げ句、取り付けもしてくれなんて言えませんからっ!」
「だからって、女のおまえがする仕事でもねーだろ。パンツ見えてるぞ。」
「うぇっ!ギャっ!」
おもしれぇぐらいに反応するこいつは、脚立の上でジタバタ暴れてやがる。
俺はそんなこいつを無視して、昼間忘れていった資料を取りにソファに向かう。
置いたままになっていた資料を手早くまとめていると、
ブーブーブーブーと、
どこからかかすかにバイブ音が聞こえてくる。
俺のズボンのポケットからではない。
そして、少しの間のあとまたブーブーブーブーと繰り返す。
「おまえの携帯鳴ってねえ?」
「……そうですか?」
脚立を壁に立て掛けながらのんきに返事をするこいつ。
ブーブーブーブー。
「鳴ってるだろ。おまえのだよな?」
「……いえ、……まぁ、気にしないで下さい。」
ブーブーブーブー。
「…………。」
ブーブーブーブー。
「すげー気になる。」
「電源切ります。」
そう言ってこいつが床におかれたままの携帯をつかみ、電源を切った。
そこまでして出たくねぇ電話ってなんだよ。
男か?
そういえば、昨日あの男が言ってたな。
「明日の夜開けておいて。美味しいお店連れてく。」
その誘いだな。
「おまえ、こんなとこで仕事してていいのかよ」
「え?」
段ボールの中から花瓶らしきものを取り出しながら俺の方を向く。
「だから、………誰かと約束でもあんじゃねーの?」
そう話す俺に、こいつは
なんの迷いもなく、
清々しいくらい、
いつもの即答で、
「ありません。」
そう言い切った。
クッ……。
ここまではっきり拒絶されちゃ、あの男も気の毒だな。
それにしても、この女のどこにそんな魅力があんだよ。
俺にはただのガキにしか見えねぇ。
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コメント
うんうん この«つかつく»たのしい~
司くんつくしちゃんの魅力に気づいてね