有りか無しか 28

有りか無しか

一度東京に戻り、次に北海道に来た日は
道明寺の退院と同じ日だった。

病室に行くと、すでに帰り支度を整えソファにくつろぐこの人。

「空港まで迎えに行ってやったのに。」

「病み上がりのくせに。」

「映画でも見ていくか?」

「この荷物を持って?」

道明寺の足元には入院グッズが入った大きめのショルダーバッグが2つ。
もちろん洗濯物も入っている。

「とりあえずマンションに帰って片付けよう。」
そう言うあたしに、なぜかこの人はニヤニヤしている。

「な、なに?」

「だっておまえ、マンションに帰る…って、なんか一緒に住んでるみてぇじゃん。」

「はぁ?」

「俺たちのマンションって感じじゃねぇ?」

この人は少し熱があるくらいが丁度いい。
ニヤニヤしている道明寺の足元からバックを取ると、「行くからね。」と言ってスタスタ歩き出すあたし。

そんなあたしの後から慌てて付いてきた道明寺は、あたしから荷物を奪うと「帰るぞ。」と嬉しそうに言って追い抜いていった。




たった5日ほど空けただけなのにマンションの部屋はひんやりと冷たい空気に包まれていた。
すぐにストーブをつけ部屋を急激に温める。

その間、道明寺は持って帰ってきたバッグから洗濯物を取り出し、洗濯機へ放り込む。
そして、慣れた手付きでボタンを押すとキッチンへ。

棚から2つカップを取り出し、コーヒーマシンにセッティング。
部屋に甘いカフェオレの香りが広がる。

そんな道明寺を見つめながら思う。
なんにも自分で出来なかった人なのに、この2ヶ月ですっかり変わった。

道明寺財閥の息子という立派な肩書はあったけれど、生活力ゼロの男だった道明寺が、
今はきちんと自分の力で暮らしているのだ。

そんなこの人をじっと見つめるあたしに、
「どうした?」
と、不思議そうに尋ねる。

「道明寺、なんか偉いじゃん。」

「あ?」

「洗濯も出来るし、コーヒーも自分で淹れられるの?」

からかうように言うあたしに、コーヒーを手渡しながら
「だろ?」
と、勝ち誇ったように笑う。

そして、甘いカフェオレに口をつけたあと、真面目な顔で言った。

「牧野。そろそろ返事聞かせてくれ。」

「え?」

「俺ともう一度付き合おう。
もちろん、1年後の結婚を前提に。」

「結婚って……。」

「俺は結婚したい。」

数ヶ月前、この会話と同じ内容をした。
けれど、あの時は立場が逆だったのに。

「前は結婚したくないって言ってたくせに。」

「…ああ。すげぇ、後悔してる。」

「他の人と婚約までする気だったくせに。」

「反省してる。」

「別れても平気そうだったくせに。」

そのあたしの言葉に、ごめん…とでも謝るのかと思ったのに、
初めて見るような泣きそうな顔で、
「んなわけねーだろ。」
と呟いた道明寺は、あたしを強く抱きしめた。

「平気なわけねーだろ。
死ぬほど辛かった。会いたくて堪んなかった。」

「……バカ。」

「ああ。」

あたしの気持ちはずっと変わっていない。
もう、素直に伝えたい。

「遠距離だけど、いい?」

抱きしめていた腕を緩め、道明寺があたしの顔をまっすぐ見つめる。

「ああ。」

んっ……久しぶりのキス。
その激しさにクラクラとする。

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