振り向いた先にいたのは、呆れた顔のババァと心配そうに病室を覗くタマの姿だった。
「心配して来てみれば、なんですかその様は。」
「おっつ、なんでここにババァがいんだよ。」
「口を慎みなさい!」
邸では仕方なく容認している「ババァ」呼びも、
一歩外に出れば封印しろと何度も言われている。
「坊っちゃん、具合はどうですか?」
「タマまで来たのかよ。」
「肺炎になるまで身体を酷使するなんて…。」
「これくらいの肺炎なら3日で治る。心配すんな。」
「つくしがいなかったら、一人で倒れてたかもしれないんですよ坊っちゃん!」
そのタマの言葉に、窓際に立っている牧野に視線が集まる。
すると、その視線に耐えられなくなったこいつが慌てたように言う。
「あ、あ、あたし、飲み物でも買ってきますっ。」
「おい、牧野っ」
自分のかばんと上着を持つと、俺の静止もきかずに病室から飛び出ていく。
ババァがいても、もう逃げも隠れもせずにあいつと向き合っていくと決めたから、この機会は絶好のチャンスとも言えたのに。
仕方なくベッドに戻り布団に入ると、
「病人はおとなしくしていなさい。」
と、一言言い放ち、ババァが出ていった。
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「タマ、西田は?」
「奥様が急遽こちらに来ることになったから、西田さんが仕事の後片付けに追われてるようですよ。」
「なんだよ、まさかババァがくるとは思わねーし。」
「息子が入院したと聞いて駆けつけない母親はいないでしょう。」
今まで散々放置されてきた過去があるっつーのに、今更母親ズラされても嬉しくねえ。
「まぁ、どーでもいいけどよ…、
タマ、牧野遅くねぇ?」
牧野が出ていってからしばらくたつ。
「さぁ。」
「さぁ?って、心配だからタマ見てこい。」
「大丈夫ですよ。」
「大丈夫じゃねーよ、あいつの事だからどこかの男にホイホイついて行ってるかもしれねーだろ。」
「大丈夫ですって。」
「タマッ!」
「心配いりませんって。もう一人帰ってきていないお方がいるでしょう。」
そういえば、さっき出ていったババァも戻ってきていない。
「まさかババァ、牧野に何か言いに行ったのか?」
慌ててベッドから飛び出そうとする俺を、タマは杖で止め、
「ここは奥様にお任せください。」
と、俺を睨みつけやがる。
「ババァのヤロー、牧野を泣かせたら許さねぇ!」
「全く坊っちゃんは、つくしのことになると見境なく動くんですから。
奥様もつくしには今回のこと感謝しているはずですよ。」
「どーだか、あのババァなら、」
「坊っちゃん!
奥様が飛行機に乗る前にどこに寄ったかお知りになりたいですか?」
「あ?」
「奥様愛用の表参道にあるお店に立ち寄られ、何か購入されました。
それを持って今つくしを追いかけたようですよ。」
ババァが立ち寄った店は、昔から親父や姉ちゃんそして俺、家族に何かあった特別なときにババァがプレゼントを購入する店だ。
そこで牧野に……。
「坊っちゃん、ここは奥様に任せましょう。」
「……ああ。」

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