牧野がせっかく北海道まで来てくれたというのに、ダウンして入院までする事になっちまった。
いつも強気なあいつだけど、目を赤くして不安に堪えて、側にいてくれている事は分かる。
だから、
「おまえが側にいてくれさえすればいい。」
と伝えた。
そして、抱きついてきたあいつに、
「愛してる」と言ったとき、かすかに頷いてくれたのは思い違いではないはず。
入院1日目は熱と咳で殆ど眠ることしか出来なかったが、さすが体力馬鹿なだけはある。
2日目にはベッドから起きて個室をウロウロ出来るまでに回復した。
そうなると退屈で仕方がない。
牧野が買い物に出掛けるとまだかまだかと落ち着かない。
そんな俺に、呆れたように牧野が言う。
「1日でこんなに元気になるなんて……。」
「だから言ったろ?肺炎くらいすぐ治るって。」
「心配して損したわ。」
「心配したか?」
思わず顔がニヤける。
すると、俺を睨みながら牧野が言った。
「明日、あたし東京に戻るからね。」
「……あ?」
「土日は仕事休めないし。」
「マジかよ、そんな話聞いてねぇ。入院してる彼氏を置いて帰るなんて薄情なやつだなおまえは。」
「はぁ?薄情って。
死にそうな大男をタクシーに乗せてここまで連れてきたのは誰よ。
それに、彼氏でも何でもないんだからね今はっ。」
いつもの言い合い。
けど、牧野の最後の言葉に、肺炎だからじゃない胸の痛みを感じる。
「牧野、その事だけどよ、昨日俺に抱きついてきたのはちゃんと意味があるんだよな?」
「え?…それは……、」
「俺の方を見ろよ。」
窓際に立つ牧野にそう言うと、あからさまに視線をそらすこいつ。
明日には東京に帰る。だから、今逃がすわけにはいかねぇ。
「牧野、」
「道明寺っ、ベッドから出てきちゃダメ!」
「じゃあ、おまえがこっちに来いよ。」
「もうすぐご飯の時間でしょ、あたし取りに行ってくる。」
逃げようとするこいつを離すまいと、ベッドから立ち上がり腕を掴む。
「道明寺、お願い、病人なんだからベッドで寝てて。」
「おまえが逃げようとするからだろ。」
「分かった、行かないから。
だから、」
「牧野、愛してる。
もう、おまえを傷付けたりしねーから、側にいろよ。」
いつまでも待つつもりなのは変わらない。
けど、おまえに触れるといつも伝えたくなるこの感情。
「仕事が片付いたらまた戻ってくるから、その時にきちんと話そう。」
「いつ?」
「だから、今度来るとき。」
「だから、いつだよ。」
「んー、月曜か火曜?」
「月曜に決まりな。」
「ちょっと、まだはっきりは分からない!」
「なんでだよ。」
「仕事が入ってるかもしれないでしょ、オーナーにもきちんと休み貰わないといけないし。」
「家族が危篤だって言え。」
「はぁー?ありえないっつーのバカ!」
俺を見上げて怒る牧野が猛烈に可愛くて思わずギューッと抱きしめると、
「ちょっ、ばかっ、何してるのよ。」
と、暴れだす。
そんなこいつの頭をガシガシと撫でてやる俺の背後で、病室の扉が開く音がした。
看護師か?そう思い振り向くと、
俺たちを呆れたように見つめる
ババァの姿。
そして、一言俺に向かって言った。
「廊下にまで恥ずかしい会話が聞こえてるわよ。」
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