有りか無しか 25

有りか無しか

牧野がせっかく北海道まで来てくれたというのに、ダウンして入院までする事になっちまった。

いつも強気なあいつだけど、目を赤くして不安に堪えて、側にいてくれている事は分かる。

だから、
「おまえが側にいてくれさえすればいい。」
と伝えた。

そして、抱きついてきたあいつに、
「愛してる」と言ったとき、かすかに頷いてくれたのは思い違いではないはず。

入院1日目は熱と咳で殆ど眠ることしか出来なかったが、さすが体力馬鹿なだけはある。

2日目にはベッドから起きて個室をウロウロ出来るまでに回復した。

そうなると退屈で仕方がない。
牧野が買い物に出掛けるとまだかまだかと落ち着かない。
そんな俺に、呆れたように牧野が言う。

「1日でこんなに元気になるなんて……。」

「だから言ったろ?肺炎くらいすぐ治るって。」

「心配して損したわ。」

「心配したか?」

思わず顔がニヤける。
すると、俺を睨みながら牧野が言った。

「明日、あたし東京に戻るからね。」

「……あ?」

「土日は仕事休めないし。」

「マジかよ、そんな話聞いてねぇ。入院してる彼氏を置いて帰るなんて薄情なやつだなおまえは。」

「はぁ?薄情って。
死にそうな大男をタクシーに乗せてここまで連れてきたのは誰よ。
それに、彼氏でも何でもないんだからね今はっ。」

いつもの言い合い。
けど、牧野の最後の言葉に、肺炎だからじゃない胸の痛みを感じる。

「牧野、その事だけどよ、昨日俺に抱きついてきたのはちゃんと意味があるんだよな?」

「え?…それは……、」

「俺の方を見ろよ。」

窓際に立つ牧野にそう言うと、あからさまに視線をそらすこいつ。

明日には東京に帰る。だから、今逃がすわけにはいかねぇ。

「牧野、」

「道明寺っ、ベッドから出てきちゃダメ!」

「じゃあ、おまえがこっちに来いよ。」

「もうすぐご飯の時間でしょ、あたし取りに行ってくる。」

逃げようとするこいつを離すまいと、ベッドから立ち上がり腕を掴む。

「道明寺、お願い、病人なんだからベッドで寝てて。」

「おまえが逃げようとするからだろ。」

「分かった、行かないから。
だから、」

「牧野、愛してる。
もう、おまえを傷付けたりしねーから、側にいろよ。」

いつまでも待つつもりなのは変わらない。
けど、おまえに触れるといつも伝えたくなるこの感情。

「仕事が片付いたらまた戻ってくるから、その時にきちんと話そう。」

「いつ?」

「だから、今度来るとき。」

「だから、いつだよ。」

「んー、月曜か火曜?」

「月曜に決まりな。」

「ちょっと、まだはっきりは分からない!」

「なんでだよ。」

「仕事が入ってるかもしれないでしょ、オーナーにもきちんと休み貰わないといけないし。」

「家族が危篤だって言え。」

「はぁー?ありえないっつーのバカ!」

俺を見上げて怒る牧野が猛烈に可愛くて思わずギューッと抱きしめると、
「ちょっ、ばかっ、何してるのよ。」
と、暴れだす。

そんなこいつの頭をガシガシと撫でてやる俺の背後で、病室の扉が開く音がした。

看護師か?そう思い振り向くと、
俺たちを呆れたように見つめる
ババァの姿。

そして、一言俺に向かって言った。
「廊下にまで恥ずかしい会話が聞こえてるわよ。」

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