道明寺が眠りについてから2時間ほどたった。
タマさんから預かった梅干しと、棚の中にあったお米でお粥を作り、起きたら着替えさせようと下着も用意した。
けれど、一つ気になることがある。
眠りながらも、何度も激しく咳をしている道明寺。
そっと額に手を乗せると、まだかなり熱い。
頬もいつもより赤く染まっている。
冷たいタオルでも用意しようかと立ち上がった時、
「牧野。」
と、小さくあたしを呼ぶ声。
「起きた?」
「ああ。」
「熱、まだありそうだね。お水でも飲む?」
「ん。」
あたしがキッチンへ水を取りに行って戻ると、道明寺はベッドの上に起き上がっていた。
持ってきた水を一気に飲み干すと、また激しく咳き込む。
「道明寺、咳酷くなってる。」
「……ゴホゴホっ……」
「病院行ったのいつ?」
「確か、4日前か。」
4日たっても熱と咳が治っていない。
「道明寺、もう一回病院行ってみよう?」
「…ゴホゴホっ……。」
「あたしも付いていくから。」
「……ああ。」
辛そうな道明寺の手を取りベッドから出すと、用意しておいた着替えを渡し、
「着替えできる?あたし、タクシー呼ぶから。」
と、携帯を取りにリビングへ行こうとする。
そんなあたしの手を道明寺が掴み、
「ごめんな、牧野。」
と呟く。
「なんでよ。」
「せっかくおまえが来てくれたのに……」
「看病しに来たんだから当たり前でしょ。」
「でも、…ゴホゴホっ……」
また咳き込む道明寺に、
「とにかくまずは病院。」と言いあたしはタクシーを呼んだ。
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マンションから30分ほどの所に総合病院があるとタクシーの運転手さんに教えられ、そこに向かったあたしたち。
土曜日の今日は、救急外来しかやっていない。
道明寺に代わりあたしが受付を済ませ、二人並んで椅子に座って待っていると、
「道明寺さーん、」
と、看護師さんに呼ばれた。
「行ってくる。」
「うん。」
来ていたダウンの上着をあたしに預け道明寺は診察室に入っていった。
残されたあたしは、その上着に顔を埋める。
道明寺の香りがする。
そして、なぜだか目に涙が貯まる。
いつも横暴で俺様なあいつが、あたしの肩に寄りかかりながらタクシーで目を閉じていた。
そんな姿を見ると、不安で怖くて…。
張り詰めていた緊張が一気に溶けて、涙腺が緩む。
すると、
さっき道明寺を呼んだ看護師さんが診察室から顔を出し、
「こちらにどうぞ。」
と、あたしに言った。
「え?…あ、はい。」
慌てて診察室に入ると、道明寺の正面に座る医師があたしに向かって言った。
「まぁ、風邪が悪化して肺炎をおこしてるから、このまま入院して治療しましょう。
熱も高いから、本人はこのまま病棟に行ってもらい、着替えとか入院手続きは奥さんにお願いしてもいいですか?」
「え?」
奥さん?
あたしに向かって当たり前のようにそう言う医師に、戸惑っていると、
「つくし、いいか?」
と、あたしの方を見ながらニヤリと道明寺まで言う。
結局、「奥さん」発言を否定出来ぬままバタバタと病棟に案内されたあたしたち。
大部屋か個室か?と聞かれ迷わず「個室で。」と答える道明寺に、看護師さんが「少し値段高くなりますけど大丈夫?」と心配してくれて、
完全に若い夫婦だと勘違いされているだろう。
着替えも何も用意してきていない。
ここからマンションまで30分以上もかかる。
知らない土地で一人で動くのは不安もある。
そんな気持ちを見抜いたように、道明寺が言った。
「牧野、西田に連絡しろ。すぐに東京から来るはずだ。事情を説明すれば、あとは西田が手配するからおまえは何もしなくていい。」
「でも、」
「おまえはここにいてくれさえすればいい。」
そう言ってあたしの頭を優しく撫でる道明寺。
でも、
でも、それじゃあ意味がない。
いつも守ってくれてたこの人を、いざというときはあたしがきちんと力になりたい。
「西田さんには連絡する。けど、道明寺の身の回りの準備はあたしがするから。だから、鍵貸してっ。必要な物、マンションから持ってくる。足りないものは来る途中で買ってくる。そしてっ、」
溢れ出る言葉とともに、また涙腺が緩み目にしずくが貯まる。
それを抑えきれずに、思わず道明寺の胸に飛び込むあたし。
そんなあたしを優しく抱きしめながら、
「バカ、泣くなって。」
と、道明寺が笑う。
「だって……、大丈夫?道明寺。」
「ただの肺炎だろ。」
「肺炎って、ヘタしたら死んじゃうでしょ。」
「そんなにヤワじゃねーから心配すんな。」
「ん。」
久しぶりに道明寺の胸に顔を埋めほっとする。
「牧野、…ゴホゴホっ…おまえがいてくれてマジで良かった。……愛してる。」
久々に聞くその台詞に、あたしも小さく頷いた。
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