有りか無しか 22

有りか無しか

毎月少なくとも2回は東京に戻って来ていた道明寺が、ここ1ヶ月一度も帰ってきていない。

「殺人的な量で仕事が貯まってる。」
つい1週間前も電話でそう言っていた。

付き合っている訳でもないのに、3日をあけずに連絡してくる所は、以前と変わらない。
道明寺という男は意外とマメなところがあるのだ。

そんなあいつだけど、今週はずっと電話じゃなくメールだけ。
それだけ忙しいのだろうか。
と、仕事をしながら考えて、慌てて大きく頭を振る。

ダメダメっ、またあいつの事を考えている。
別れたはずなのに、なぜだか以前よりも今の方が距離が近い。
東京と北海道で離れているのに、うまく言えないけれど、道明寺を近くに感じる。

今の道明寺は以前よりずっと穏やかで温かいような気がするのだ。
なぜだろうか…。



それから1週間、久しぶりにメールではなく道明寺から電話が来た。

「もしもし。」

「…牧野。」
たった一言だけど、すぐに分かる。

「道明寺、具合悪いの?」

「あ?…あー、すげぇなおまえ。」
そう言って笑う道明寺の声はいつもより低い。

「どうしたの?」

「こっち、想像以上に寒くてよ、あっという間に風邪引いた。」

「熱は?」

「38.6」

「高っ!病院は行った?」

「ああ。薬も飲んで仕事も休んでる。」

邸の専属医師に見守られ、タマさんに介抱して貰っていた今までとは違うのだ。

「ご飯は?」

「…食う気になんねぇ。」

「ダメっ、何でもいいから食べなきゃ。冷蔵庫になにか入ってない?お米は?果物はある?」

矢継ぎ早にそう言うあたしに、道明寺はまたクスッと笑って、

「食えそうだったら食うから心配すんな。」
と言ったあと、

「おまえが近くにいたらすぐに元気になるのにな。」
と、小さく呟いた。

「……。」

「牧野、会いてぇ。」

「……。」

「治ったらすぐに会いに行く。」

そんな風に耳元で言われると、あたしの思考回路も狂ってくる。

「……朝一でもいい?」

「…ん?」

「今からじゃ飛行機間に合わないから、明日の朝一でそっちに行く。」

馬鹿げているのはわかってる。
けど、あたしの口から出てしまう言葉を抑えることが出来ない。

「……。マジかよ、牧野。」

「うん、マジだよ。」

「……。」

「来なくていいって言われても、」

「言わねーよ。」

「え?」

「来なくていいってカッコよく言いてぇけど、それよりもおまえに会いたい。
死にそうだから、昼まではもたねぇから、朝一で来い。」

バカ。
どれだけ俺様なのよ。
でも、あたしはやっぱりこの人のこういうストレートな所が好きなのだ。

「分かった。明日行くからね。」

「待ってる。住所はメールする。」

そうして電話を切ったあと、あたしはバタバタと部屋中を駆けまわり明日の用意を始めた。

北海道に行くなんていつぶりだろう。
確か、子供のときに家族で親戚の家に遊びに行った以来じゃないだろうか。

まずは飛行機の予約と、一応ホテルの場所も確認しておこう。

そう思い、リビングにあるパソコンを立ち上げた時、ピンポーンと部屋のチャイムが鳴った。

こんな時間に誰だろう。
玄関へ行き、「はい?」と小さく返事をすると、

ドアの向こうから
「西田です。」
と、聞き慣れた声がした。

「西田さんっ?」
慌ててドアを開けるあたしに、

西田さんは深々と頭を下げたあと、
「司様から頼まれまして、これをお持ちしました。」
と、白い封筒をあたしに渡す。

ん?と思いながら受け取り中を見ると、そこには北海道行きの飛行機のチケット。

「これは……、」

「明日の一番早い便を至急取るようにと言われましたので。それと…、」

「はい?」

「タマさんからはこれを預かって参りました。
薬と梅干しです。風邪によく効くそうです。
それと、……私からはいつでもお呼びくださいとお伝えください。呼ばれればすぐにそちらに行きますと!」

そう言う西田さんの真剣な顔に、あたしは思わず吹き出しながらも、

道明寺あんたみんなに愛されてるよと心の中で呟いた。

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