有りか無しか 19

有りか無しか

工房を出ると、すぐ前にはババァが乗ってきた専用車が停められていた。

運転手が俺の顔をみて少し驚いたあと、何事もなかったように後部座席に俺とババァを案内する。

「空港まで行ってくれ。」

「かしこまりました。」

飛行機まであと1時間弱。
もたもたしている暇はないが、窓の外ばかり見ている隣のババァとも少し話す必要がありそうだ。

「どうだった?」
そう切り出す俺に、

「…何がよ。」
と、視線は外のまま答えるババァ。

「あの工房、なかなかいいだろ。」

「…そうかしら。」

「場所はオーナーから借りてるけど、内装や花のアレンジメントはあいつの趣味だ。」

「……。」

それでも、こちらも見ず黙ったままのババァに言ってやる。

「未来の嫁に、あんまり食ってかかるような事するなよな。」

その言葉に案の定こっちを見る。

「未来の嫁?」

「ああ。一年後にはそうなってるはずだ。」

「あなた本気で言ってるの?」

「ああ。
ババァも知ってるだろ。俺が人に執着しない奴だってこと。そんな男がどうしてもあいつがいいって言ってんだ。これを逃したら一生独身だぞ。」

「だからって、どうして……」

そう言ったまま片手で顔を覆うババァ。
その姿は普通の母親の姿に変わらない。

「確かにあいつはババァが求めてるような政略結婚の相手とは違う。
けど、あいつとなら穏やかに暮らせる自信がある。
子供を作って、家族で仲良く暮らして、たまにはジジババと遊ぶってのが俺の理想だ。」

「ジジババって、」

「悪くねーだろ、そういうのも。」

姉ちゃんにも2歳の娘がいるけど、旦那の仕事の都合で海外暮らしをしている。年に数回会う孫にババァたちがメロメロなのは見ていてわかる。

「彼女は?結婚するって言ってるの?」

「いや。今のところ振られたままだ。」

「クスッ……私の説得よりもまずは彼女を説得すべきね。」

台詞は嫌味だけど、そこにトゲトゲしさはない。

それ以上俺たちは会話することなく空港に向かった。

車から降りる際、
「じゃ、行ってくる。」
そう言う俺に、

「しっかりやるように。」
と、ババァはもう仕事モードに戻っていた。




道明寺が工房に現れてから数日後、滋さんと久しぶりに会う約束をしていた。

待ち合わせ場所の居酒屋へ行くともうすでに出来上がっている彼女。

「いつ来たの?滋さん。」

「30分くらい前かな。先に飲んじゃってごめんね。」

「いいですけど、滋さんみたいな人が一人で呑んでたら危険だからやめてください。」

「えー、なんで〜?」

「だって、変な人に声かけられますよ。」

今日だって、綺麗な足が見えるタイトスカートに、鮮やかな赤のハイネックセーター。
どこから見てもお嬢様オーラ全開で店内のお客さんも思わず振り返るほど。

それなのに本人は、
「だーれも声なんてかけてくれないのよ滋ちゃんには。」
と、やさぐれている。

「何かあったんですか?」

「つくしー、聞いてよーっ!」

今日あたしを呼び出したのは聞いてほしい話があったからなのだろう。
普段は弱音は吐かない滋さんも、時々こうして胸の内を吐き出すときがある。

「あたし、お見合いしたの。」

「えっ!?お見合い?」

「そう。先方からどうしても会ってほしいって言われて。
でも、いざ会ってみたら、全然あたしのタイプじゃなくて。でもね、いい人だって事は分かるのよ。家柄もいいし、ご両親もいい人だし、あたしの事も気に入ってくれてるし、でもさー、顔が好きじゃないっ!どーしてもタイプじゃないのよねー。」

「顔ですか…?性格が良ければ気にならないと思いますけど」

このあたしの一言が、なぜか滋さんがヒートアップさせてしまう。

「つくしがそれを言うかっ!」

「え?」

「顔より性格?
司なんて性格以外はパーフェクトの男じゃん。
唯一の欠点があのズタボロの性格だわね。
そんな奴の彼女にその台詞は似合わんっ!」

「もう彼女じゃありませんから。」

あたしも負けじと口を尖らせて言うと、そんなあたしの顔を覗き込んで滋さんが言った。

「司とは会ってる?」

「……。」

「会ってあげなさいよ。あいつホームシックにかかって病んでるかもしれないから。」

つい先日、会ったときはそんな雰囲気はなかった。

「大丈夫ですって。」

「冷たいなーつくしは。北海道に一人左遷されて、小さなマンションにひとりで寂しく暮らしてるんでしょ?」

「え?」

「……え?知らなかったの?」

「仕事でしばらく出張してるって聞いたから、ホテル住まいだと思ってましたけど。」

そう言うあたしに、滋さんは思いっきりマズイという顔をして視線をそらす。

「滋さんっ、詳しく説明してください。」

「え?いや、だから、……、あたしもよく知らなくて、」

「滋さんっ!」

「……はぁーーー。もう、司におこられるかもあたし。」

そう言って滋さんはうなだれる様にテーブルに顔を付けた。

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コメント

  1. 葉月 より:

    こんにちは(#^.^#)

    コメ欄が見つからないと思ったらこんな下にありました。
    此方に越してからのお話楽しく読ませて頂いてます。
    今回の司がまさかの左遷にアパート暮らし、司の愛が・・・・
    つくしどうこたえるのか楽しみです。

    • 司一筋 司一筋 より:

      こんにちは〜。そうそう、皆さんコメント欄あること気付いていないみたいです笑★見つけてくださってありがとうございます。我が家の司くんなら、つくしのためならどこでも生きていけま〜す♡

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