有りか無しか 18

有りか無しか
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昼近くに東京に到着した俺は、一度本社へと足を運ぶ。
バタバタと北海道へ旅立ったので、私物の整理などはそのままにしてきた。

幸い、俺が今まで使っていた部屋は誰も使っていない。
ファイルの整理や、北海道へ持っていく書類、仕事に使う私物を振り分けて、時計に目をやるとあっという間に3時間以上は経っていた。

牧野会う前に、ひとつ行っておきたい場所がある。
慌てて身支度を整えてオフィスを出た。




約束の時間の6時。
工房の外から中を覗くと、ガラス張りになったフラワーケースの中からいくつかの花を取り出して、ブーケの形に整えている牧野の姿。

牧野を見ると実感する。
堪らなく愛しいと。

工房の扉を静かに開けて、ゆっくりと牧野の背後に近付いた俺は、
「牧野。」
と、一言いった後、振り向きざまのこいつを抱きしめる。

「わぁっ!…道明寺っ?」

「おう。」

「バカッ!びっくりするじゃないっ。」

「会いたかった。」

小せぇ体を抱きしめて、至福の瞬間を味わっている俺の腕の中で、

「変態っ、離してよバカッ、」
と、大騒ぎのムードの欠片もねぇ女。

ようやく腕を緩めると、俺の胸をドンっと突き放し、
「あんた、ここは仕事場なのっ、おかしな事しないでよっ!」
と、怒る牧野。

その俺を睨む顔もすげぇ可愛くて顔がニヤける。

「お花が折れちゃったじゃない。」

「悪かった。」

抱きしめた力でブーケ用の花が無残にもボロボロになっている。
その花を丁寧に直す牧野の手には目新しいグローブ。

俺はそれを見て、さっき買ってきたばかりの物が入った袋を牧野に差し出す。

「なに?」

「開けてみろ。」

怪訝な顔で紙袋を覗き込む牧野に、強引に袋を持たせ開けさせる。
そこには、以前送ったものと同じライトブルーのグローブ。

「今度は捨てるなよ。」
嫌味を込めてそう言う俺に、

「これを渡しにわざわざ来たの?」
と、可愛くねぇ事を言う。

今つけているグローブを手から外してやり、俺が持ってきた新しいそれを小さな手に付ける。
まだ革が固くて馴染んでいないけど、もう手放すことはさせねぇ。

「似合ってる。」
呟くようにそう伝えた時、

工房の扉が開く音がした。

お客さんか…そう思って振り向いた俺の目に、とんでもない物が映る。

「いらっしゃいませ。」
と、いつものように対応した牧野は、

その客の、
「やっぱりここにいたのね。」
と俺を見つめていう言葉に、不思議そうに俺を見上げる。

「ババァ、なんでここに?」

「あなたが戻ってきてると聞いたのに、いっこうに邸に顔を出さないから、どこで油を売ってるかと思いきや。」

「関係ねーだろ。」

「そうかしら?親にも顔を見せずに、会いに来る相手が誰か知っておく必要もあるでしょ。」

その会話に、牧野も気付いたらしい。

「そちらが牧野さん?」

「あっ、はい。牧野つくしです。」

「息子がお世話になってるそうね。」

「いえっ、こちらこそ……」

頭を深く下げてペコリと挨拶する牧野。
こんななんの準備もないまま、ババァに会わせることになるとは思ってなかった。

「別れたと聞いているけど、本当かしら?」

「ババァっ!」

「はい、本当です。」

「今は、どういう関係?二人は。」

「……友達に戻っています。
時々、連絡を取り合うくらいです。」

嘘はついていない。
付き合ってるわけでもねーし、毎日会いに来ることも出来ない状態。

その牧野の返事にクスッと笑ったババァは、俺に向かって言う。

「あなたって人は情けないわね。
北海道に飛ばされて、降格……」

そこまでババァが言った時、俺は牧野を引き寄せて、こいつの耳を両手で塞いでやる。

牧野には知られたくねぇ。
北海道に行った理由も、平社員に降格した理由も。
すべて俺の責任だから。

牧野を選んでたからそうなった訳じゃない。
俺自身が親父とババァに認められていないから。
だから、牧野には聞かせたくねぇ。

急に俺に耳を塞がれた牧野は驚いて俺を見つめる。
そして、そんな俺の行動を見たババァは、それ以上口をつぐみ黙りこくる。

ババァがそれ以上何も言わないと確信した俺は、そっと牧野の耳から手を離し、

「牧野、わりぃ、時間だから行く。
仕事無理すんじゃねーぞ。また連絡する。」

そう言って頭を撫でてやり、
黙ったままのババァの背中を押して工房をあとにした。

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お待たせしました。

更新遅くなってごめんなさいね。

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