道明寺財閥が新たに手掛けているリゾートホテルの建設場所は北海道の温泉地。
初めて海外系のホテルと業務提供することが決まり、富裕層をメインターゲットにした高級リゾートホテルが1年後にオープンする予定なのだ。
牧野には東京に戻るのは1ヶ月になるか、それとも一生になるか、なんて言ったけれど、
少なくとも1年間は本社に戻れない事は覚悟している。
表向きは道明寺の跡取り息子だが、今の俺の地位は平社員に降格した。
北海道での住居も、建設地から車で30分ほどかかる小せぇマンション。
それでもこの辺りでは最高クラスのマンションだと西田が言っていた。
もちろん、メイドもいない。
掃除も洗濯も自分でするしかない。
そんな俺を見かねたタマが、ロボット掃除機とボタンだけ押せば乾燥まで終わる洗濯機を設置した。
幸い食事はマンション下にレストランがある。
そこで3食食べれば死ぬことはない。
「坊っちゃん、生きていけますか?」
北海道へ来る前日にそう俺に聞くタマに、
「3日で死ぬな。」
と、冗談を言ったあと、
「心配すんな。
俺が本気だっつー事見せるチャンスだろ。」
と、笑って言ってやった。
一人暮らしなんて、今思えば初めてだ。
物音が何も聞こえない部屋に帰ってくる経験なんて今まで知らなかった。
そんな状況だからなおさらあいつに会いたくなる。
牧野に電話しようと何度も考えた。
でも、あいつと話せば、きちんとした答えが欲しくなる。
『もう一度、やり直す。』
その言葉が聞きたくて、多分俺はあいつを急かすだろう。
でも、急かせばあいつはきっと俺が望まない選択をする。
それが怖くて、声が聞けないなんて……。
北海道に来て2週間。
ようやく明日、スケジュールが少し空く。
朝の便で東京に行き、すぐに夜の便でこっちに戻ってこれる飛行機を予約した。
航空券を手にしながら、携帯を開き久しぶりに牧野にコールする。
「もしもし。」
5コール目で出た牧野の声は小さい。
「俺だ、もしかして仕事中か?」
「うん。」
時計を見ると10時になろうとしている。
「随分、遅いな。」
「結婚式の後片付けしてたから。
なにか用?」
後でかけ直すと言おうとしたが、仕事が終わるまで待ちきれない。
「明日の仕事は?」
「え?明日?」
「昼から何してる?」
「仕事。」
「何時まで?」
「5時頃かな。」
5時……、飛行機まで3時間しかねぇ。
空港までの往復を考えたら、実際は1時間弱か。
「6時に工房に迎えに行く。」
「え?」
「1時間くらいしか会えねぇけど、絶対時間空けとけよ。」
それだけ言って電話を切った俺は、久しぶりに聞いた牧野の声と、明日会えるという嬉しさで、
「やべぇ、心臓いてぇ。」
と、呟いていた。

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コメント
初めてコメします!
つかさくん、頑張れ!
コメントありがとうございます!司くん頑張りますよっ!