駅の改札を出て、マンションまでの道のりを早歩きで帰っていると、急に周りの人の流れがゆっくりになったような気がした。
ふと、前を見ると、ガードレールに腰掛けながらこちらを見ている人がいる。
「道明寺。」
小さく呟くあたし。
通行人の視線を釘付けにする男は、相変わらず無駄にオーラをばら撒いている。
付き合っている時も、何度もここであたしを待ち伏せしていた道明寺に、「目立つからやめて」と苦情を言ってきたはずなのに、
当の本人は相変わらず全く気にしていない。
「やっと来たか。」
あたしを見るなりそう言って横に並び、ニコッと笑う顔は、つい先日婚約を破棄されたとは思えないほど明るい。
「どうしたの?何か用?」
「いや。」
「……。」
用がないと言われれば、何も返す言葉もない。
駅から少し離れ、ようやく人混みが落ち着いた頃、まだ黙っている道明寺にあたしが言った。
「聞いたよ、婚約駄目になった事。」
「おう。」
「残念……だったね。」
この言葉があっているのか分からない。
けど、結婚しようとしていた相手に逃げられたんだ、道明寺のプライドは傷ついただろう。
「あんただったら、またいい縁談があるよ。
だから、元気出して。」
一応、気を使って言ったはずの言葉に、道明寺はあっけらかんとして答える。
「アイス食う?」
「はぁ?」
「あそこのアイス、おまえ好きだろ。」
「……。」
あたしの返事なんて聞かずに、勝手にアイス屋に進んでいく道明寺をあたしは慌てて追いかける。
「チョコレートと抹茶のダブルで。」
いつもあたしが頼むアイスを道明寺が注文する。
「ちょっと、道明寺っ!」
「クレープは?」
「はぁ?」
「2つくらい買ってくか?」
「いらないっつーの!」
全然人の話を聞かない道明寺にあたしがキレると、ダブルのアイスを受け取りながら楽しそうに笑う。
結局、道明寺から無理矢理アイスを持たされたあたしは、それを食べながら再びマンションまでの道のりを歩く。
「道明寺、何しに来たの?」
「おまえの顔見に来た。」
「ふーん。で、用は何?」
「だから、おまえの顔見に来ただけ。」
この人は、暇なのか?
そう思いながら、それ以上は聞いても無駄だと思い、黙って歩くことにする。
マンションが見えてきた。
と、その時、ようやく道明寺が口を開く。
「牧野。」
「ん?」
「俺、」
そこまで言った時、ちょうどマンションの前に着き、玄関灯の明かりに照らされるあたしたち。
すると、道明寺が急に眉間にシワを寄せて怒ったように言う。
「おまえ、これ、どーした。」
アイスを持つあたしの手を掴む道明寺。
「何が?」
「すげぇ、荒れてるだろ。」
「ああ、これ?この間、手袋忘れちゃってそのまま仕事してたから。」
週末はかなり忙しかった。それなのに、いつも愛用しているグローブを忘れてしまって、素手で作業していたから、あかぎれと花の棘でいくつもの傷が出来てしまった。
出来たばかりの傷からはまだ赤く血が滲んでいる所もあり、道明寺はそんなあたしの手を掴み渋い顔をする。
「俺がやったグローブは?」
「……。」
「牧野。」
「捨てたよ。」
「あ?」
「だって、…もう別れたんだしあたしたち。だから、道明寺から貰ったものは、全部捨てた。」
貰ったグローブ、手帳、時計……
どれもあたしにとって大事なものだったけれど、あの日道明寺があたしのマンションの合鍵を返してきた日、
あたしも同じように道明寺への気持ちをきちんと整理した。
自分でも意外だったけれど、思い出を断ち切ることで心がだいぶ軽くなった。
それなのに、道明寺は怒ったようにあたしに言った。
「牧野、俺と一緒になろう。」
「え?」
アイスが溶けてあたしの指をつたう。
「結婚…しようぜ、俺たち。」
「何言ってるのあんた。」
あまりにも予想外の展開にあたしはただただ立ち尽くすだけ。
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コメント
こんばんは!
ずーっとコメ残そうと思いながら決心がつきませんでした。が、司に触発されて!
有りか無しか…もちろん、無し!でしたが、途中から雲行きが…
「司!お前は、そんな奴だったのか!」と最初は怒り、読み進めても「じゃあ、最初から付き合うなよ!」と怒りは収まらず、でも前話辺りから「司も辛いね〜」と、自業自得!から、「まあ有り!だね」に変わりました。
でも、ドン底に突き落とされたつくしは、そう簡単に許しちゃいけない!♀️
意地を見せてやれ!
でも、たぶん、絶対、その上を行く司も、メゲずに頑張れ〜
つくしのアングリ顔が目に浮かびます。どんなリアクションをするんでしょうね。楽しみです。
コメントありがとうございます!司、少しずつ動き出しています。いつも道明寺財閥とつくしの間で悩み苦しんでいる司をうまく表現できたらいいなぁと思っています。これからもよろしくお願いいたします☺