とうとうこの日がやって来た。
両家が揃い正式に婚約を交わす。
その後はマスコミに連名で文書を流す事になっている。
もう、後戻りはできない。
最後の悪あがきで牧野に会いに行ったこと、堪らなくなってキスをした事、後悔はしていないがしなければ良かったと思っている。
なぜなら、前よりももっと胸が苦しいから。
牧野と別れ際に、あいつに合鍵を返した。
婚約したらきっぱり連絡を経つ。
牧野を都合よく愛人のように利用する事だけはしたくねぇから。
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親父と母親と3人で邸を出て、婚約式をする予定のホテルへ向かった。
女とは1週間ほど会っていない。
どこにいて何をしているかなんてちっとも気にならない。
そんな相手と今から婚約すると思うと笑えてくる。
ホテルの最上階にあるVIPルームへ行くと、まだ相手方は来ていなかった。
座って5分ほど待っていると、コツコツと小さな音がして女の両親が現れた。
顔を合わせるのは初めてだ。
立ち上がり軽く頭を下げると、
「お待たせしてしまって申し訳ない。」
と、低姿勢で謝る。
でも、そこに女の姿はなかった。
「綾子さんは?」
ババァがそう聞くと、バツが悪そうに女の母親が答える。
「別々の車で来たのですが、途中渋滞につかまってしまって。もうすぐ到着すると思いますので。」
「そうですか。では、一杯飲みながら待ちましょうか。」
「…はい。」
そこまでは何も問題はなかった。
けれど、5分、10分、15分たっても女が現れない。
「どうしたのかしら綾子さん。」
「すみませんっ、電話しても出なくて。」
「まさか、事故にでも」
心配する親父とババァ、慌てている女の両親。
と、その時、俺の携帯が鳴った。
画面には西田の文字。
「もしもし。」
「司様、綾子様はそちらにいらっしゃいますか?」
「いや、まだ来てねぇ。」
「実は、ある筋から情報が入ったのですが、」
西田から聞く話しに俺は耳を疑った。
けれど、それは一瞬で次の瞬間には
「やられたな」と俺の顔に笑みが漏れる。
そして電話を切った俺は相手の親に言った。
「今すぐ出国名簿を確認したらいいですよ。
今頃、空の上で乾杯してるはずだ。」
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その思いがけない話を聞いたのは、道明寺が婚約して1日たった頃だった。
工房に現れた花沢類が、さも楽しそうに言った。
「司が婚約をすっぽかされたって聞いた?」
「え?」
「婚約式に相手の女が来なかったらしい。」
「どういう事それ。」
信じられない話にあたしの作業の手が止まる。
「どうやら、好きな男がいてそいつと高飛びしたって。かなり前から計画してたみたいだよ。」
「好きな男って…それならどうして婚約なんか、」
「司と結婚することを条件に、土地や別荘のかなりの財産を譲り受けたらしい。貰うものだけ貰って、あとは逃亡したってわけ。親も真っ青になって大変な騒ぎだったってさ。」
そんなドラマのような事が現実にあるなんて。
いくらビジネス上の結婚だからって、あまりに卑怯なやり方だ。
「道明寺は?どうしてる?」
「司?そりゃ、落ち込んでるだろ。
婚約者に逃げられたんだから。」
「だよね……、」
「立ち直れないんじゃないかな〜。
プライドをズタズタにされた訳だし〜。」
妙に楽しそうにそう話す花沢類。
「花沢類、なんか楽しそう。」
「ん?そう?
司が落ち込んでるなんて一生に一度しかないかもしれないから、慰めに行ってくるよ〜。」
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コメント
だんだん楽しくなってきました。
ニヤニヤしながら 読ませていただいてます。
ありがとうございます。
普通に他の女と結婚しようとしてるようなこの話の道明寺は大嫌い
つくしちゃん許さないで
馬鹿な司でごめんなさい!
これから少しずつ挽回させますので
許してくださーい
る