「道明寺?なんでここにいるの?」
眠そうに目を擦りながらそう言う牧野は、華奢な肩からキャミソールの紐が落ちかけている。
俺は、ベッド下に落ちているパーカーを拾い上げると、無言でこいつの肩にかけてやりながら、
「どういう事か説明しろ。」
と、類に言った。
「ん?」
「類、テメーなんでここにいる?」
「なんでって、牧野と一夜を共にしたから?」
そう平気で言いながら、ハンガーに掛けられていたシャツを着る類。
「それより、司はなんでここにいるの?」
「それは、……」
「牧野、俺帰るね。
司はどうする?」
どうするって、聞きたいことは何も聞けていない。
牧野の方に視線を移すと、ベッドから立ち上がった牧野は、俺と類の方へドカドカと近付き、
「あたしも仕事だから、二人とも早く帰るっ。」
と、俺たちを玄関へと追い払いやがる。
あっという間に外に放り出された俺たち。
まだモヤモヤしてる俺を尻目に、類はスタスタと駐車場へと歩いていく。
「類っ。」
「んー?」
「牧野と、……何かあったのか?」
「何かって?」
「だからっ、その、ね、ね、寝たのか?」
まさか有り得ねぇ…とは信じているけれど、
この二人には過去にすれ違いとはいえ想い合っていた時期もある。
「気になる?」
「ああ。」
類の真正面に立ち、迷いなくそう答えると、
フッ…と小さく笑ったあと、類が言った。
「ああ、寝たよ。」
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あたしが勤めるフラワーショップの裏に、小さな工房がある。
オーナーが若い頃使っていたそこは、今はあたしのアトリエとして使わせて貰っている。
フラワーアレンジメントの依頼がくると、そこで色合いを考えたり、ブーケを制作したり。
いつかはあたしも自分の力でこんな工房を持ちたい。
今日も、週末の結婚式に向けてブーケ作りをしていると、工房の扉が開き長身のシルエットが現れた。
「おう。」
「暇なの?」
早朝にはあたしのマンションに来て、昼には工房にまで押しかけるこの人は、どういうつもりなんだろう。
「何か用?」
あたしのその問いにも答えずに、作業台にしている長テーブルに腰を下ろした。
作業をやめないあたしをじっと見つめる道明寺。
「なに?」
「おまえさ、……、」
「なによ。」
「類と、寝たのか?」
突拍子もない事をいきなり聞き出すバカ。
花沢類に何か吹き込まれたのだろうか。
だとしても、そんな事を確かめにわざわざ来るなんて。
「寝たって言ったら?」
「信じねぇ。」
「じゃあ、何が聞きたいの?」
「昨夜、何があったか教えろ。」
怒っているような、悲しいような、そんな目で聞くのは…ずるい。
「……、ただ呑んでただけ。
酔ってそのまま泊まっていったの。」
「あいつが脱いでたのは?」
「ワインをこぼして、シャツを洗っているうちに花沢類が寝ちゃった。」
そこまで話すと、道明寺は片手でこめかみを抑えながら俯く。
「類のヤロー、ぶっ殺す。」
「フッ…なによそれ。」
「おまえと寝たって言いやがった。」
「信じたの?」
「信じねーよっ。
けど、……あいつはおまえが好きだから。」
2回目の突拍子もない発言。
花沢類とあたしはそんな雰囲気の欠片もないのに。
「んなわけないでしょ。」
「油断すんじゃねーよ。」
「あたしと花沢類は友達なの。それ以上でもそれ以下でもないの。」
「おまえはな。でも、男は違う。
おまえは……いい女だから。」
急に真面目な顔でいい女なんて言われると、調子が狂う。
だから、少しだけ意地悪をして言ってやる。
「7年も付き合ってた彼氏に結婚を断られた女なのに?」
冗談で言ったつもりだった。
別に当てつけしてやろうなんて気は無かった。
それなのに、
そう言ったあたしに、辛そうに顔を歪めた道明寺は、
「どうしようもねぇバカだな。」
と、呟いた。
それはあたし?それとも道明寺?
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