両家の顔合わせ、式の打ち合わせ、新居の下見。
連日、あの女と行動を共にしていると、どっと疲れが溜まる。
ワガママで他人の顔色なんて気にするような性格じゃないくせに、ババァや親父の前だとガラリと人格が変わる。
「司さんと力を合わせて、良い家庭を築きます。」
なんて猫なで声で言いやがるから、二人きりになったときに言ってやる。
「ホテルで定期的に会ってる男とは切れたのか?」
俺のその言葉に驚く様子もなく女は言う。
「私達の結婚に、その事が何か関係ある?」
「いや。むしろ俺と同じ考えで助かる。
俺達の結婚はビジネスだから。」
そう言って鼻で笑ってやる。
すると、女が近づいてきて俺を見てにっこり笑いながら言った。
「あなたが望むなら、ビジネスだけの関係じゃなくてもいいのよ?」
俺に身体を密着させて、ヒールのかかとを更に上げ、唇を近付けてくる。
「心配するな。死んでも望まねーから。」
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肉体的にも精神的にも疲れている。
いつもならこんな時、真っ先にあいつに会いに行く。
牧野に会って、あいつの笑顔に癒やされて、あいつを胸に抱きながら眠りにつく。
それだけで、疲れが吹っ飛ぶはずなのに、今はそれに代わる術を俺は知らない。
オフィスに向かう車の中、信号待ちで止まると、抑えていた気持ちが勝手に動き出す。
オフィスへはこのまままっすぐ進む。
けれど俺はウインカーをあげ右折していた。
この先に牧野のマンションがある。
会うつもりはない。
ただ、少しでも癒やされたい。
そんな気持ちであいつのマンションの近くまで来た時、ふとマンション横にある駐車場に、見慣れた車が停まっているのを見つけた。
黒のポルシェ。
ナンバーは、間違いない、類の車だ。
朝の7時半。
こんな時間に類が起きてるなんて奇跡に近い。
それなのに、ここにあいつの車があるということは、
考えられることはただ一つ。
牧野の部屋に類が泊まったのか。
会わずに帰るはずだった。
見て見ぬふりをすべきなのは分かってる。
けど、そんなに俺はお利口さんじゃねぇ。
類の車の横に自分の車を停めると、牧野の部屋へ急いだ。
鍵は持っている。
合鍵は未だに俺のキーホルダーについたまま。
なんの迷いも無く鍵を差し入れ玄関を開けると、
そこには紛れもなく男物の靴が揃えてあった。
ドカドカと部屋へ入り込む。
リビングの扉を開けると、それと同時にトイレの扉が開いた。
「司?」
「類、おまえ……。」
その後の言葉が出てこねぇ。
なぜなら、類のヤローが裸だったから。
下はズボンを履いているけれど、上半身は真っ裸。
そんな状態で、
「どーしたの、司。」
と、不思議そうに俺を見てやがる。
無性に腹がたった俺は、類を押しのけて部屋の奥にあるベッドルームへ行くと、
今まさにベッドに起き上がった牧野が、
キャミソール姿と寝ぼけた顔で、
「道明寺?なんでここにいるの?」
と、俺を見つめて言った。

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