有りか無しか 5

有りか無しか

道明寺の婚約話が耳に入ったのは、別れて2ヶ月くらいしてからだった。

仕事の打ち合わせでメープルホテルのドレスルームへ行くと、若い新人スタッフが興奮気味に教えてくれた。

「道明寺司さん、婚約したらしいですよ。」

「……へぇー。」

「式もここで挙げるそうです。
相手の方、どんな方なんでしょうね。」

そんな話をしていると、ドレスルームに一人の女性が入ってきた。

淡いピンクのワンピースにヒールが折れそうなくらい高い靴。
長く栗色のウェーブの髪にツヤツヤのリップ。
いかにもお嬢様という出で立ちの彼女が、
「ドレス試着してもいいかしら。」
とスタッフに言った。

「どうぞ。」
と中に案内された女性。

しばらくして一着のウェデイングドレスを身に着け現れた。
素敵…。

遠目でチラッと見ただけでも似合っているのがわかる。

「写真、撮ってもらえる?」

「はい。」

若いスタッフに写真を撮るよう言って、前と後ろから数枚撮ってもらっている。

「見せて。」

「はい。」

「ちょっと!角度が悪いわね。
もう少し全体のバランス考えて撮ってもらえるっ。」

きつい言い方に、その場が一瞬静まり返る。

「すみません。」

「いいわ、次のドレスに着替えてくるから。」

傲慢な態度はお嬢様だからなのか。
あたしは顔見知りのスタッフに視線を送り、
「また、来週来ます。」と口だけ動かして挨拶すると、ドレスルームを逃げるようにして出た。

あんな女性と結婚するのはどんな人だろう。
きっと苦労するんだろーな。
なんて思いながらホテルの廊下を歩いていると、
男性用ドレスルームから男の人が1人出てきた。

後ろ姿だけでわかる。
久々に見る道明寺。

見つからないように立ち止まって息を潜めたのに、その願いも虚しく、道明寺が振り向いてあたしを見る。

「……おう。」

「…どーも。」

ペコリと頭を下げて、おかしな挨拶をするあたしに、クスッと笑った道明寺はゆっくりと近付いてきた。

「仕事か?」

「うん。」

「……元気だったか?」

「うん。」

あたしたちの関係が変わってから初めて顔を合わせる。
もっと気まずかったり、苦しかったりするのかと思ったけれど、
実際はそうでもなかった。

ちゃんと、『無し』だと自分で認めたからもう辛くない。

「道明寺は?仕事?」

「……いや、」

その後、道明寺がチラッとドレスルームを見ながら何かを言おうとした時、
あたしたちの後ろで声がした。

「あら、もうフィッティングは終わったの?」

廊下の向こう側にいるのはさっきドレスルームにいた女性。

フィッティング?
道明寺に向かってそう話す彼女を見て、
あたしは一瞬で状況を理解した。

「牧野、俺、」

「道明寺、婚約したんだってね。」

「…ああ。」

「もしかして、相手はあの人?」

小声でそう聞くと、もう一度
「ああ。」
と答える。

それを聞いて、あたしは思わず笑ってしまった。

「ふふっ……あははは。」

「牧野?」

彼女みたいな人と結婚するのはどんな人だろう。
苦労するだろうな。

さっきそう思ったのに、まさかそれが道明寺だったなんて。

「おまえ、何笑ってんの?」

「いや…ふふっ……別に。」

道明寺、あんた苦労すると思うよ。
でも、あたしを捨てたバツだから覚悟しなさいっ。

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