失恋の痛みは仕事でかき消す事にする!
そう決めて、毎日忙しく駆け回る日々。
今までだって、バイトや勉強で恋愛どころじゃなかった時期もあったんだから、
元のあたしに戻るだけ。
いっそ、東京から離れようか。
それとも、新たな資格をとってスキルアップを目指そうか。
そんな風に考えながら1ヶ月が過ぎた頃、なんとなく体調が優れない日が続き、とうとう今まで1度も休んだことのなかった仕事まで休むことになった。
熱はない。
でも、頭痛と軽い腹痛。
夏風邪でもひいたか…そう思いながら家にある風邪薬をのもうと、薬箱を取り出し用量を確かめていると、
ふと、ある一文に固まる。
『妊娠中の方の服用は……』
まさか、まさかね。
でも、
カレンダーに目をやり、今日の日付を確認する。
3日遅れてる。
思い当たる行為はない。
きちんと避妊はしていたはず。
でも、この手のことに100%なんてないから。
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それから3日たったある日、
相変わらず朝から体がだるかったけれど、そのまま仕事に行ったあたしは出先で倒れてしまった。
目の前が真っ暗になって、気がついたときには病院のベットの上。
目が覚めたあたしに看護師さんが、
「貧血で倒れたのよ。後で先生から詳しい説明があります。帰りに薬も出てるから貰って行ってね。」
と、優しく声をかけられ、もう一度ゆっくりと目を閉じる。
そっかぁ、あたし倒れたんだ。
仕事場に迷惑かけちゃったなー。
なんて考えながら、大事なことに気付く。
「あのっ!」
「はい?」
さっき声をかけてくれた看護師さんを呼び止める。
「あのぉー、あたし、」
妊娠してるかもしれなくて……そう続けようかと思った言葉を飲み込む。
なぜだか、口にしちゃいけないような気がしたから。口にしたら現実になってしまいそうな気がしたから。
「トイレ…に行ってもいいですか?」
「はい、どうぞ。
まだふらつくかもしれないからゆっくりね。」
ニコッと笑う看護師さんにペコリと頭を下げてトイレへ向かう。
すると、
やっぱりさっきのあたしの勘が的中していた。
生理が始まったのだ。
よかった。
口にしなくて。
本当に良かった。
ベッドに戻り、もう一度目を閉じる。
もしも、もしも本当に妊娠していたらあたしはどうしただろう。
例え、道明寺と付き合いが続いていたとしても、
やったーと素直に喜んでいただろうか。
答えは『NO』かもしれない。
なぜなら、有りか無しかで言うと『無し』だから。
今の時代、出来ちゃった結婚なんて珍しくはない。
でも、それは一般の話であって、
『道明寺』が相手なら簡単に許される問題ではないだろう。
会った事はないけれど、道明寺のお母さんはかなり厳しい人だと西門さんから聞いたことがある。
そもそも、あたしたちの恋愛を快く思っていなかったはず。
そんなあたしが妊娠してるなんて言ったら、どれほどの問題になるか想像しただけでも怖い。
彼の母親に、道明寺と籍を入れるという事に覚悟があるかと問われたら、胸を張って答えられるだろうか。
あの時、道明寺はあたしとの結婚は『無し』だと言った。
酷い…と彼に怒りをぶつけたけれど、
もしかしたら、道明寺の方が結婚についてよく考えていたからこそ、出した答えなのかもしれない。
目を閉じてもう一度自問する。
あたし達に『結婚』という未来は見えている?
あたしの答えは、
今だから分かる。
道明寺と同じ
『無し』
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