いつも二人が使っているアシスタント机が、飲み会のときもフル稼働。
一樹くんが買い出ししてくれた飲み物やおつまみで机上はすっかり打ち上げ気分。
そこに彼が到着して、あたしたちは目が点になった。
なぜなら、
「これ、どうしたのっ?!」
「あ?…知り合いがくれたんだ。」
「す、凄ーーーい!」
高級ワイン3本とお重に入れられたお料理の数々を持ってマンションに現れた彼。
ひろ子さんも一樹くんも自己紹介なんてそっちのけで見たこともない料理に大興奮している。
そして、アシスタント机を囲みあたしたちの飲み会が始まった。
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「それにしても、彼氏さんいい顔してるわー。」
だいぶお酒が回ってきたひろ子さんが、彼の顔をまじまじと見てそう呟く。
「漫画に出てきそうな整った顔。」
一樹くんまでうっとりしてる。
あたしはと言えば、疲れた体にお酒が効いて、眠気もだいぶ限界にきてる。
「それにしても、つくしちゃんっていい男を惹き付ける力があるのかしら。」
「へ?」
「だってー、元彼だってアレだし、今の彼氏も……ねぇ〜。」
「ひろ子さん、ちょっと酔いすぎですかね。」
一樹くんがひろ子さんの肩を抱きフォローを入れてくれるけれど、
「惹き付ける何かが知りたいっ。」なんて言いながらグラスをあけるひろ子さん。
そんな彼女だって、去年籍を入れたイケメンの旦那様がいるのだ。
二人で並んでいると美男美女のお似合いの夫婦。
新婚さんらしくいつも幸せオーラ全開のくせに〜。
なんて、思っていると隣からの強い視線に気付く。
彼があたしの顔をじっと見て黙ったまま。
そんな彼を見て、あたしは思う。
綺麗な人。
今日は珍しく淡いピンクのシャツを着て、
それが凄く似合ってて。
大きな瞳、長いまつげ、高い鼻。
輪郭のいい唇。
キス……したいなぁ。
あたし、相当酔ってるらしい。
それとも欲求不満?
彼と付き合いだして3ヶ月。
そろそろ深い付き合いになってもいいはず。
最近はそんな事を期待してるあたし。
たぶん、ここにひろ子さんと一樹くんがいなかったら、あたしから押し倒してたかもしれない。
キスしていい?
キス………、
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はぁー、やっちゃった。
ズキズキと痛む頭を抑えて身体を起こすと、
昨夜の飲み会の痕跡は綺麗に片づけられ、
いつものアシスタント机に戻っている。
あたし、あのまま寝落ちしちゃったんだ。
ベッドに寝かせてくれたのは彼だろうか。
部屋を見渡してみても彼の気配はない。
キッチンには昨日の高級ワインとお重のお料理が残されたまま。
時計を見ると8時半。
もう会社に着いているはずだから、電話じゃなくラインにしようと携帯を開くと、
「起きたら電話しろ。
何時でも構わない。」
と、彼からメッセージが残されていた。
迷ったけれど、電話をかける。
「もしもし。」
「起きたのか?」
「お、おはようございます。」
昨夜どこまで醜態を晒したのか分からず、急に恥ずかしさが込み上げる。
「昨日はごめんね。あたし寝ちゃって。」
「おまえだけじゃねーよ。
俺以外、次々と寝落ちして大変だったんだぞ。」
「えっ、ひろ子さんと一樹くんも?」
「ああ。どんだけ疲れてたんだよ。」
彼の笑いを含む声にホッとする。
と、その時電話の向こうで声がした。
『副社長、おはようございます。』
それを聞いてあたしは慌てて言う。
「会社でしょ。後でかけ直すっ!」
「いや、大丈夫だ。まだ時間ある。」
「でもっ、側に副社長がいるの?」
「……ああ、まぁな。」
彼の歯切れの悪い返事は、側に上司がいるからだろう。
「夜、電話するね。」
もう一度そう言うと、
「ああ。待ってる。」
と、甘く響く声。
あたしは電話を切った後、その電話を握りしめてもう一度布団に潜り込んだ。

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