惚れた弱み 5

惚れた弱み シーズン1
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〈道明寺〉

先週彼女にあった時、確か『締め切りが近い』と言ってたのを思い出し、ラインを打つ手を止めて窓の外に目を向ける。

きっとまた未読されるのがオチだろ。

そんな事を思っていると、突然手の中の携帯が短く鳴った。

「今日、少し会えますか?」

それは、会いたくて堪らないと思ってた愛しい女からの一文。
やばい、心臓が痛てぇ。

返信するのも忘れて俺はオフィスを飛び出した。




会社に隣接するケーキ屋で、フルーツが散りばめられたカラフルなケーキをいくつか買い彼女のマンションへ急ぐ。

「会いたい。」なんて彼女から言われるのは初めて。
それだけで色々と期待するバカな俺。

部屋につくと、見慣れないワンピースと唇には薄くリップまで付けている彼女が出迎えてくれた。

「仕事は?」
俺のその問いに

「んー、ちょっと休憩。
外でご飯でも食べる?」
と、小さく笑うその顔に元気がない。

そんな彼女の手を取り、部屋に入るとソファに座らせる。

「ちゃんと寝てるか?」

「…仕事貯まってるから。」

そう言って俺を見つめる彼女の目の揺らぎは前にも見たことがある。

「もしかして、行き詰まってるか?」

「はぁー、全然書けなくて。」

やっぱりな。
喫茶店でも何度か同じような目を見たことがある。
考えて、考えて、着地点を探している時の目。

そんな時は1回そこから離れたほうがいい。
俺も仕事で何度も経験しているから分かる。

「ケーキ買ってきた。食おうぜ。」

「ご飯は?」

「とりあえず糖分補給。
そして、眠くなったら寝る。頭をスッキリさせて1回空っぽにしてみろ。そしたらいいアイデアも出てくる。」

そう言って彼女の頭をくしゃっと撫でながら、
「いつもの部屋着に着替えてこい。」
と、笑ってやる。

仕事の事でいっぱいいっぱいなのに、お洒落して外に出掛けようと思ってた所がまた愛しい。

いつものラフな服装に着替えた彼女と、お茶とケーキの用意をしてまたソファに座る。

「それで?今どんな展開で行き詰まってる?」

「派手な喧嘩をして……、
仲直りはしたけど、なんとなくギクシャクしてて。」

もちろん、これは漫画のストーリー。
喧嘩の原因も、ギクシャクの度合いも俺は知らねぇけど、ただただ真剣に悩んでる彼女が可愛く見える。

隣に座る彼女の頭を俺に寄りかからせるように引き寄せ、その口にケーキを一口入れてやる。

「おいしい…。」
そう呟く彼女はゆっくりと目を閉じる。

そして数分後、目を閉じたまま言った。

「そっかぁ…。言葉じゃないのかも。」

「ん?」

「ずっとあたし、セリフを考えてたの。
ギクシャクしてる雰囲気をあったかくするセリフを。
けど、こういう時にあたしが求めるのは言葉じゃないのかもって。」

「ふーん、難しいな。」

「難しい?自分がやってるのに?」

「俺が?」

「そう。こうやって側にいて、身体を引き寄せて、優しく笑う。
これがあたしが書きたかった事かも。」

そう言って俺を見て笑う彼女の目は、さっきまでのとは違いキラキラしている。

あっ、なんか俺スイッチ入れちまったかも。
これは自分で自分の首をしめる展開だ。

後悔しても遅く、目の前の彼女は俺を見て、今度は申し訳なさそうに切り出した。

「あのー、あたしから誘っておいて申し訳ないんだけど、」

ほらな?予想通りの展開。

「今なら書けそうなの。
だから、…帰ってもらってもいいですか?」

女から帰ってくれなんて言われたのはもちろん初めてだ。けど、こうなったのは俺にも責任があるからしょうがない。

「プッ……ったく、しょーがねーな。
はいはい、漫画家先生。
思う存分仕事してくれ。」

今なら分かる気がする。
俺が彼女に猛烈に惹かれた理由が。

このキラキラした目で、楽しそうに原稿にペンを走らせている姿が綺麗でかっこよかったから。

玄関まで見送ってくれる彼女の頬に軽くキスをして、
「頑張れよ。」
と、言い残し部屋を出た。

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