惚れた弱み 4

惚れた弱み シーズン1
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彼女をソファに押し倒した俺は、そのまま首筋に顔を埋める。

すると、
「ダメっ、ダメダメ!」
と、思った以上に抵抗の嵐にあう。

不服そうに顔を上げた俺に、
「あたし、さっきも言ったけど2日間お風呂に入ってないから!」
と、堂々たる宣言。

「この状態でお預け食らうのか?」

「だって!」

「待てねーって言ったら?」

我ながら意地悪な質問だと思うけれど、
ここまで来て、はいそうですか。と素直に彼女から離れたくはない。

でも、その考えも一瞬にして思いとどまらせる一言をぶち込んできた。

「で、でも、…ほんと無理。
あたし、初めてだからシャワーぐらい浴びさせて欲しい。」

もしかしたらそうかもな…なんて淡い期待なんかしたりもしてたけど、実際初めてだと聞かされて、なんか知らねーけど込み上げるもんがあって、

ソファに横になっている彼女の身体を引き起こし、
「行ってこい。長くは待たねーからな。早く戻ってこい。」
そう言うのがやっと。

ウン。と小さく頷いたあと、バスルームに逃げ込む彼女を見ながら、
まじで惚れた相手との恋愛っつーのは、こんなにも心臓に悪いのかよと頭を抱える。

ゴムちゃんと持ってきてるよな。なんて確認しようとソファから立ち上がったとき、彼女の携帯が鳴った。

画面には
「編集部 磯山さん」の文字。

嫌な予感はするが、仕事に真剣な彼女を知っているから、このままスルーする事は出来ない。

バスルームをノックし、
「電話来てるぞ。編集部から。」
そう言うと、

「えっ!」
と、慌てた声がして、少し間が空いたあと、バスタオルを1枚だけ身につけた状態で彼女が出てきた。

携帯を渡すと「お疲れ様です。」と言って出る彼女。

「はい、…はい、あー、そうですか。
まだ間に合いますか?はい、じゃあ、今から編集部に行きます!」

嫌な予感は的中。

電話を切った彼女は、俺の方を見つめて
「ごめん、なさい。」
と、呟く。

ったく。
ここまで来て、お預け食らうのかよ。

でも、しょーがねぇ。
惚れた弱みだ。

どっぷり骨まで惚れてると自覚してるから、諦めも早い。ゆっくりじっくり付き合うしかねーだろ。

白い肌に引き寄せられるように彼女の肩にキスをして、
「今度は待ったなしだからな。」
そう言って俺は部屋を出た。



〈つくし〉

付き合って1ヶ月の彼は、予想以上に甘い。

学生時代からバイトバイトで明け暮れていたあたしは、漫画家さんのアシスタントというバイトを経て、思いかけず漫画家への道を歩き始めた。

仕事はようやく軌道に乗ったばかり。
恋愛なんてしてる場合じゃない。

けれど、『仕事の役にも立つだろ。』
という彼の言葉に押されてOKした恋愛は、あたしを甘い世界へと引っ張っていく。

先日も、もう少しで一夜を共にするところだったけれど、運良く?運悪く?編集部から原稿ミスの連絡が来た。

彼か仕事か、と言われれば、今のあたしは仕事を取るだろう。
恋愛はしなくても死なないけれど、仕事は違う。
あたしを助けるためにアシスタントのひろ子さんと一樹くんも頑張ってくれている。
彼らの努力を無駄にすることは出来ないから。

来月締め切りのストーリー決めをしようと、いつもの喫茶店に顔を出した。

マスターにペコリと頭を下げて2階へ上る。
数分後、いつものコーヒーを持ってマスターが2階へと来た。

「どう?仕事は順調?」

「まぁ、はい、なんとか。」

いつもはコーヒーをテーブルに置いて離れていくマスターが、今日は珍しくあたしのテーブル席の隣に座った。

「つくしちゃん、」 

「はい?」

「彼氏できた?」

あまりに突然の質問に固まるあたし。

「いやー、なんとなくね、そんな気がしてさ。」

マスターはあたしと彼の事を知っているのだろうか。
もしかして、彼が言ったのかな。
そんな事をグルグル考えてると、
 
「二人がそうなったなら僕も嬉しいなぁと思ったから、ちょっと聞いただけ。」
と、マスターが言う。

「マスター、どうして、」

「ここ最近、二人いい感じだったでしょ。
お互い今まで黙々とここで仕事してるだけだったのに、いつの間にか仲良くなって急接近してたし。それに、なんだかつくしちゃんを見る司くんの表情が柔らかいなーと思ってさ。」

ここまで言われてはぐらかす事はできない。

「実は、その、あたしたち付き合い始めたんです。」

「やっぱり!そう、それは良かった。
へぇ〜、あの司くんがつくしちゃんをねー、へぇ〜。」

『あの司くん』という言葉が気になってマスターに聞く。

「そんなに意外ですか?」

「ん?まぁね。
司くんはあんまり誰にでも心開くタイプじゃないから。特に女性には距離をおいてたよ。あの容姿じゃ、言い寄ってくる女性も多いだろうし。」

「……確かに、ですよね。」

あのルックスでモテない訳がない。
会社員だと言っていたけれど、会社でもキャーキャー言われてるのだろうか。

「会社、女の人多いのかな……。」

思わず漏れたあたしの言葉に、
「まぁ、仕事の付き合いは多いだろうね。」
と、ウンウン頷くマスター。

「マスターは彼の仕事知ってるんですか?」
何気なく聞いたあたしに、今度はマスターが固まった。

「つくしちゃん、もしかして司くんが何してる人か知らないの?」

「え?何してるって、会社員だって言ってましたけど?」

「あーら、まぁ。確かに会社員には間違いないけど。」

「違うんですか?」

「いや、違わない違わない!さぁ、仕事に戻らなくちゃ。つくしちゃん、ごゆっくりー。」

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コメント

  1. ヨッチ より:

    惚れた弱みで、我慢しますねぇ〜
    司君の正体を知らないで付き合ってるつくしちゃん、だからこそ、いろいろな付属品を見ないで済むから、本質を好きになって!

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