惚れた弱み 2

惚れた弱み シーズン1

〈道明寺〉

付き合って1ヶ月。
もっぱら俺らのデートはいつもの喫茶店。

彼女の仕事は漫画家だから、仕事に決まった時間はない。
連載中の漫画を2つ抱えていて、
大まかな原稿を彼女が書き、それをアシスタント2人と一緒に仕上げていく作業らしい。

ストーリーは喫茶店で考え、作業は自宅のマンションの部屋。
締め切りが近いときは2日間徹夜なんてこともザラにある。

そんな彼女との恋愛は常に我慢の連続だ。

「今日は会えそうか?」

昼の休憩時に送ったラインも、今午後6時の時点でまだ未読。
こんな事は珍しくない。

仕事が終わる頃になってやっと、
「明日のお昼までに仕上げなきゃいけないから、今日は会えそうにないの。」
と、絵文字も一切ない一文だけが送られてきて、苦笑する。

今までの恋愛とは完全に立場が逆転している。
今までは、女からのメールにもほとんど返信せず、自分から連絡した事なんて記憶にない。
その事で何度も泣かれたり喧嘩になったり。
その度に恋愛っつーのはめんどくせぇもんだといつも思っていた。

そんな俺が、1日何度も携帯のラインを確認し、たった一通の返信だけで満たされるなんて、完全にヤラれてる。
秘書の西田でさえ不審な目で見てやがる。

『会えそうにない』
そう振られたのに、なぜか辛くない。
今頃、部屋着のまま、化粧もせず、机にむかって黙々と作業してるんだろうと考えただけで、胸が鳴るバカな俺。





次の日、仕事を早く切り上げて、邸で着替えたあと彼女のマンションまで行った。

外までは送ったことは何度かあるけれど、まだ部屋に入った事はない。

「今、マンションの外にいる。
出てこられるか?」

そうラインしても相変わらずの未読。
部屋の前でチャイムを一度鳴らしてみるが反応なし。

出掛けてるか?それとも疲れて眠っているか?
どちらにしても少し待っていれば連絡がつくだろう。と、部屋の前で座って待っているうちに眠くなってきて、膝を抱えて眠っちまった。

どれくらい寝てたのか。
ガチャっ!という音で目が冷めた俺の頭上で、
「ご、ごめんなさいっ!ライン気付かなくて!」
と、慌てた彼女が立っている。

その姿は、予想通りのまま。
パーカーにショートパンツという部屋着で、前髪はキャラクターもののピンで留められおでこ全開、化粧っ気もない白い肌。

「いつからここに?」
彼女の問いに、

「今、何時?」
と、質問で返す。

「9時。」

「じゃあ、3時間前から。」

その言葉に、くしゃっと顔を歪ませ、
「ごめんなさい。」と呟く彼女が凶悪に可愛くて、

俺は立ち上がり、彼女を引き寄せて抱きしめる。

「あ、あのー、あたし2日間お風呂に入ってないからっ。」

「だから?」

「接近禁止。」

「プッ……。3時間も待ってたのに、ご褒美もなしかよ。」

彼女から体を離し、正面から見つめると、
照れたように言った。

「へ、部屋に入ります?」

「ん。」

「狭いですけど。」

「気にしねぇ。」

「あ、じゃあ、片付けるので5分だけ、
あっ、ちょっと、待って!」

ごちゃごちゃ、うるせー事言ってる彼女を置いて、俺は部屋の中へ入り込む。

そこは、さっき彼女を抱きしめた時に感じた甘い香りで包まれていた。

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