惚れた弱み 1

惚れた弱み シーズン1

〈道明寺〉

「俺と付き合わないか?」

口から溢れ出たその言葉に返事はなく、
もう一度言う。

「付き合おう。仕事にも役に立つだろ。」

色気のない告白だと言うことは百も承知だけれど、
今までの俺の人生、初めてのセリフだから仕方ない。

たっぷり10秒ほど間が空いたあと、彼女は答えた。

「は、はい。お願いします。」

そうして、俺の彼女となったのは、
牧野つくしという1つ年下の漫画家だった。

出会いは喫茶店の二階。
そこは、親父が若い頃から行き付けにしていた古い店。

1階は普通の客で賑わっているが、2階はマスターが許した客しか座れない静かな空間。
そこに行くと、奥から2つ目の席にいつも彼女がいて、俺が来たことなんて気付いていないかのように、机の上の紙とにらめっこしている。

時には必死で何かを書いていたり、
時には怖いくらい真剣な顔で考え込んだり。

いつだったか、彼女が帰ったあとマスターに聞いた。

「いつもいるあいつ、何者ですか?」

「あー、つくしちゃんかい?
昔ここでバイトしてた子さ。
今は売れっこの漫画家さん。」

「へぇー。」

漫画家。
俺とは縁のない人間だ。

ある時、いつものように喫茶店の奥にある階段を上り2階へ行くと、いつもの席に彼女が座っていた。

久しぶりに会う彼女。

ゆっくりとコーヒーを飲みながら仕事のメールに目を通し、ふと顔を上げると、
彼女が机に突っ伏して眠っていた。

それを見て、なんとなく体が動いた。

彼女に近づき、隣のテーブル席に座る。
そして、机に広げられたいくつかの紙を手に取る。
それは書きかけの漫画の原稿だった。

上手いのか下手なのか、漫画をほとんど読まない俺にはさっぱり分からない。
けれど、それが恋愛ものの、いわゆる少女漫画だと言うことはわかった。

なぜなら、その漫画のストーリーが今まさにキスシーンだったから。
そのシーンで力尽きて寝てしまったのか。

と、その時、
彼女が眠そうな顔を上げて俺の方を見た。

そして言った。

「どう思います?それ。」

勝手に読んで怒られるのかと思っただけに、その言葉に拍子抜け。

「あ?」

「いや、だから、そのぉー、その展開どう思います?」

「ここでのキス?」

「そう、そうです!」

「ありえねぇ。」

読んで感じたとおり言った俺に、

「あー、やっぱり?そうですよね。
ありえないですよね、そこでキスするなんて。」

と、また机に突っ伏して頭を抱える彼女。

自分で書いておきながら、あり得ないと頭を抱えるその仕草が妙に可笑しくて、クスッと笑っちまった俺に、

彼女は顔を上げて、恥ずかしそうに笑った。

その顔が、すげぇ可愛くて一発で俺は
『落ちた。』

それから俺らは何度も話すようになった。
いつも話題は漫画のこと。

「恋愛したことない作者が、妄想だけで恋愛漫画を書いている。」
と、彼女が漏らした通り、
肝心のラブシーンの展開になるといつも頭を抱えている。

「男の人って、こんな時どうします?」
「女の子にこうされたら嬉しいですか?」

仕事に真剣な彼女の質問に、柄にもなく真面目に答える俺は、いつしか彼女にどっぷりと惹かれていった。

そして、出会って1ヶ月。
冒頭の告白。

「仕事に役に立つだろ。」
とは、余計なセリフだが、そう言わなければOK貰えなかったかもしれない。

今までの恋愛とは違う。
相手の女に合わせていつしか付き合い、いつしか別れてきたこれまでの恋愛とは違い、

今回は『俺が』彼女と付き合いたいと思った初めてのパターン。

惚れた方が弱いというが、ほんとそうかもしれねぇ。
驚いた顔で俺からの告白に応じた彼女が、

すげぇ可愛くて、もうすでに俺はメロメロだ。

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コメント

  1. ヨッチ より:

    これは新作ですよね?
    楽しみです。

    • 司一筋 司一筋 より:

      新作です♡
      短編になると思いますが、シーズン1、シーズン2という感じで、続く設定でいます。どうぞお楽しみに。

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