VOICE〜ボイス 32

VOICE〜ボイス

ここ最近、牧野の様子がおかしかった。
何かを考えている素振りで、俺といてもソワソワしてる。
どうかしたのかと聞こうと思った矢先、

こいつの口からとんでもない言葉が飛び出した。
「道明寺、……あたし留学する。」

思っても見なかった言葉に絶句する。
「あ?留学?」

「うん。あのね、」
そのあとは、牧野の早口で、
すごくいい環境の学校だとか、
今がチャンスだとか、
将来の自分には必要だとか、
まくし立てるように理由が続く。

その『留学行きたいアピール』を聞きながら、
ふと、今日オフィスで見た書類のことを思い出した。

西田から見せられた書類。
それは、再来月から着工する予定のメープルホテルロサンゼルスの建設書類だった。
NY、日本に次いで3番目に大きな規模になる予定のロサンゼルス支店。

「西田、なんでババァじゃなく俺の名前が責任者として書いてある?」

ホテル事業はババァの分野だ。

「ロサンゼルス支店は司さまに任せると社長より伝言がありました。
着工から営業開始までの1年間は、ロスでのお仕事が増えると思われます。」

そんな会話をしたのがつい数時間前。

「牧野、ロスの学校って言ったよな?」

「うん。」

「1年間か?」

「うん。」

「……わかった。……オッケー、了解。」

これは偶然か。
それとも…………、
俺はまだ何か言いたそうな牧野を置いて部屋へと戻った。

「もしもし。」

「どうかしたの?
プライベートな携帯にかけてくるなんて珍しいわね。」

会社にも理事長室にもいなかったババァに、はやる気持ちでプライベート携帯へと電話した。

「牧野の留学のこと聞いた。」

「そう。随分迷ってたみたいだけど、昨日返事をもらったわ。
まさか、あなたが反対して行かせないなんてことはないでしょうね。」

「行かせてたまるかっ。
…………って、言いたいとこだけどよ、
まずは聞きたいことがある。」

「なにかしら。」

「ロスのメープルの責任者が俺に変更になったことは、牧野の留学と関係あるのか?」

「さぁ、どうかしら。」

フフフ……と電話の向こうで笑うババァ。

「ロスでの仕事が増えるって西田が言ってたけど、どれぐらいだ?」

1ヶ月に1度は仕事を利用して会いに行けるのか。
それが無理なら、せめて3ヶ月に1度……。

そんな期待をしながら聞いた俺に、

「仕事をなめてもらっちゃ困るわ。」
と厳しい口調でババァが言った。

「ロスのメープルは客室もホールもウェディングもどこよりも最高の物を作る予定よ。
責任者をあなたに任せると言うことは、着工から完成まで責任もって携わって貰わないと困るの。
日本での仕事は私が引き継ぎます。
あなたは来月から1年間、ロスでホテルを任せるわ。」

言ってることはビジネスだが、これが牧野の留学と無関係だとは思えない。

「俺はロスで1年間仕事をして、
牧野はロスで1年間勉強をする。」
独り言のようにそう呟く俺に、

「あら、偶然ねっ。」
と、笑いながら電話を切ったババァ。

こんな風にババァと電話で話したのはいつぶりだろう。
耳に残るババァの笑い声を思い出して、
「悪くねぇな。」
と呟いた。

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