1ヶ月なんてあっという間で、
とうとう明日、出発の日。
西門さんが旅立つあたしのためにパーティーまで開いてくれて、出発前日まで慌ただしい毎日だった。
パーティーが終わって門限ギリギリに寮に帰って来たあたしと道明寺は、別れるのが名残惜しくて、寮の物陰に隠れて何度もキスを重ねた。
結局、あたしたちは片手で数えるほどしか夜を共にすることが出来なかったし、二人で過ごす時間もほとんどなかった。
「道明寺……時間。」
「ん、分かってる。」
門限が迫っているけど、道明寺のキスはなかなか止まない。
「明日、遅れるなよ。」
「うん。」
道明寺が空港まで送ってくれることになっている。
見送りされると悲しさが増すからいらないと言ったのに、送るといって聞かない道明寺。
部屋に戻ると、綺麗に片付けられた私物が段ボールに収まっている。
今度日本に戻るときは、もう道明寺は卒業してここにはいない。
あたしもたぶんこの寮には戻って来ないだろう。
そう思うと、色々な思い出が蘇る。
道明寺がNYに行って毎日のように電話してたあの頃。
連絡がなくなって、苦しかった日々。
戻ってきた道明寺に『おまえが好きだ。』そう言われた日の戸惑い。
あいつと出会ってからのあたしは、いつだって心のど真ん中にあいつがいた。
そんな日々の思い出がこの部屋にギュッと詰まっている。
シャワーに入り、明日の用意を整えて、ベッドに入ったところでプルルルル…………、
携帯がなる。
枕元においた黄金の携帯。
「もしもし?」
「何してた?」
さっき、別れてきたばかりの道明寺から。
「ベッドに入ったとこ。
どうしたの?」
「いや、……声聞きたくなった。」
「……うん。
ねー、道明寺。
あたしたちってさ、いつもこうやってこんな小さな機械を通して話してるよね。
携帯がない時代なら、とっくに終ってるよあたしたち。」
「かもな。俺、おまえの声すげー好きだ。
怒ったり、笑ったり、泣いたり、時々かわいいこと言ったり、
こうしておまえの声聞くだけで実感する。
おまえが好きだって。」
いつだってストレートにこういうことを言ってくれる道明寺。
それに比べてあたしはいつだって素直じゃない。
「牧野、1年後の俺たちはどうなってる?」
「え?」
「……おまえの未来に俺はいるか?」
その不安そうに聞いてくる道明寺の言葉で、この間伊藤くんに聞かれた言葉を思い出した。
『つくしの夢ってなに?』
その答えをあたしは道明寺にきちんと伝えてない。
「道明寺、あたしが勉強を頑張るのも、
バイトをしてお金を貯めてるのも、
留学を決めたのも、
全部っ、全部、道明寺のためっ。
道明寺とずっと一緒にいたいからっ、
あんたとこの先、生きていきたいからっ、
あたしの未来には道明寺しかいないからっ、
だから……、」
叫ぶように言って、その先を続けようとするあたしに、
「おまえさ、それ、どういう意味か分かって言ってるのか?」
とからかうように聞いてくる。
「え?意味?」
「そう、意味。
俺にはおまえからのプロポーズにしか聞こえねぇんだけど。」
「えっ?はぁっ?!」
「まぁーおまえがそんなに俺様と結婚したくて堪んないっつーなら、してやっても構わねぇよ。」
素直になって、ありったけの気持ちをぶつけて、
正面切って言ったあたしの言葉は、
相変わらずの俺様発言で道明寺のペースにのまれていく。
明日出発するあたし。
結局、最後の最後まで、
小さな機械を通してじゃれあった二人。
泣かずに行こう。
あたしたちの未来のために。
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