VOICE〜ボイス 30

VOICE〜ボイス

「道明寺、あのね、……あたし
…………留学する。」

いつものように門限を過ぎたあと、共有スペースで仕事から帰ってきた道明寺にそう打ち明けた。

「あ?留学?」

「……うん。」

みるみる顔色が険しくなる道明寺に、
前から留学を希望していたこと、
国際弁護士になるにはいい環境の学校であること、
このチャンスは滅多にないこと、
それを必死で説明した。

「ふざけんなっ。
ありえねーだろっ。」
そう予想通りの返答をした道明寺だったけど、
ふと考え込んだあと、

「一年だよな?ロスの学校か?」
と食いつくように聞いてくる。

「う、うん。そうだよ。
ロスに1年間。」
そう答えるあたしに、

「そっかー……オッケー、…………了解。」
と呟く。

呆気なく了解なんて言う道明寺に、
「えっ?ほんとっ?ほんとにいいの?」
と思わず聞き返す。

「その代わり、ロスで住む家は俺が決める。
おまえはキョトキョトしてっから、向こうに行っても変なやつらに騙されたりすんだよ。
とにかく、おまえは自分の身仕度だけしとけ。
あとの手配は俺がする。」
そう言い残して、あっさりと部屋に戻っていく道明寺。

あいつっ。
釣った魚に餌はやらぬじゃないけど、
自分のものになった途端、あんなにしつこかったあたしへの執着は皆無かよっ。
と突っ込みを入れたくなるほど。

留学を決めたあたしは、道明寺に言われた通り自分の身仕度だけに専念していたけれど、これがかなり大変。
外国の新学期に合わせて急遽留学が決まったため、残された時間は1ヶ月弱。

その間に留学の手続きや、課題の提出、必要な物の買い物など、バタバタと過ごして時間がない中も、
道明寺と過ごす時間をなんとか確保しようとするあたしとは逆に、

あいつは今まで以上に帰りも遅く、会っていてもどこか上の空、ただでさえ離れることに不安なあたしは、こんな道明寺の態度にどんどん弱気になっていく。

久しぶりに二人で過ごす夜。
まだ慣れない行為に照れながらも、あとどれくらいこうして道明寺と過ごせるんだろうと考えると胸が苦しくなってきて、
柄にもなく横にいる道明寺にギュッと抱き付いた。

「牧野?」

「道明寺。」

「ん?」

「……寂しい?あたしが側にいなくなると、寂しい?」
と、駄々っ子のように答えをねだる。

「おう。」

甘えるあたしの髪を優しく撫でてくれる大きな手。

「電話したら今度はちゃんと出てね。
忙しいときはメールでもいいからしてね。」

「おう。」

「仕事で近くまで来るときがあったら言ってね。あたしから会いに行くから。」

「おう。」

そして、言うつもりはなかったけど、

「……浮気しないでね。」
と小さく呟くと、

「するわけねーだろバカッ。
おまえこんなに俺が尽くしてるのに、まだそんなバカみてーなこと聞くのかよ。」
と、あたしの首に顔をうずめてくる。

分かってる。
道明寺がどんなにあたしを大事にしてくれてるか。
でも、この1ヶ月だけは許してほしい。
たくさん甘えさせてほしい。

キャラじゃないのは分かってる。
けど、強気で意地っ張りなあたしが
あんたに抱きついて全身で寂しいよと訴えるほど、

あたしは道明寺が好きだから。

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