「道明寺、……あっち向いてよ。」
「やだ。」
「………それなら、少し離れて。」
「無理。」
昨夜、あたしたちは……外泊した。
道明寺と一緒に一夜を過ごすことに、緊張と嬉しさと、その他もろもろの理由で
なかなか寝かせて貰えなかったあたし。
目が覚めたのは10時を過ぎていた。
そして、翌朝、通勤客のピークを過ぎた電車に揺られ寮に帰る途中、隣に座る道明寺の視線がこれでもかと言うくらい熱い。
それだけじゃなく、あたしの右手を握る道明寺の手の動きが……やらしい。
「道明寺っ、……やめて。」
「あ?……プッ……なにがだよ。」
「なんかっ、だからっ……
…………いや、何でもないっ。」
言葉にするのも恥ずかしくて黙るあたしに、
「めちゃくちゃ可愛い。」
とこの人は甘い声で言う。
今までも二人きりになると甘い顔をする道明寺が、昨日一線を越えてから、ますます甘い。
それがあたしを困らせる。
なんとかその雰囲気を変えるため、気になっていたことを聞いてみる。
「道明寺、あたしずっと気になってたんだけと、あんた鶴さんとどんな話したの?
外泊届けがどうの……って。」
「ああ、この間俺とおまえの外泊届けを書いて鶴に預けといた。
いつでも電話一本で出せるように。」
「へぇー……って、ちょっとっ!
なに勝手にあたしのまで書いてんのよっ。」
「プッ……だって、俺が外泊するときはおまえも一緒だろーが。
な?書いておいてよかっただろ?
こんなに早く使う日が来るとは思わなかったけどな。」
「……ん、……まぁ、……そうだけど。」
そうだけど、……そうなんだけど……、
鶴さんにどんな顔で会えばいいのよ。
道明寺と泊まってきましたって、平気な顔で素通り出来るほど図太くない。
そんなあたしにこの人はとんでもないことを言う。
「牧野、寮出ねーか。」
「……え?」
電車のなかで大きな声で聞き返すあたし。
「寮じゃなければ、もっと自由に出来るだろ。」
「自由に……って。」
「門限もないし、好きなときにおまえに会いに行ける。」
「…………。」
「なぁ、一緒に部屋でも借りるか?
それとも、おまえが邸に来てもいい。
どうせ、いずれ結婚すんだから問題ねーだろ。」
あたしの手をギュット握って、甘い顔でそんなことを言う道明寺。
あたしは、なんて言い返せばいいのか分からず、
「次、降りるよ。」
と立ち上がった。
ペナルティー2回目のあたしたちは、あと1回で停学。
今回は鶴さんのおかげでなんとか免れたけど…………、
その日の夜、部屋の電話が鳴った。
「もしもし。」
「牧野さん、私です。」
「理事長っ。」
電話の相手は道明寺のお母さん。
「少し話があるの、今から理事長室に来れるかしら。」
完全に…………バレた。
いくら鶴さんを味方に付けても、理事長には敵わない。
「……はい。わかりました。」
あたし……停学になるんだ。
パパとママになんて説明しよう。
そんなことを考えながら部屋を出た。
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