『絶対来るな』
昨日、牧野にそう言われて、
絶対に行くことを決めた俺。
それをお祭りコンビに話すと、
ギャハハハハーと笑い転げる二人。
そして、「俺らも行かない方がいいと思うぞ。」
と言ってくる。
「どういう意味だよっ。
俺は行くって言ったら行くからな!」
そんな俺に、
「しょーがねーな。
俺らも付き合ってやる。
もしかしたら、面白いもんが見れるかもしれねーしな。」
と顔を見合わせて意味深に笑うこいつら。
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牧野たちが集まっている店に遅れてやって来た俺らF4
「なんで俺もなの。」
と眠そうな類も連れて店に入ると、そこは威勢のいい店員が出迎える大衆居酒屋。
「い、い、いらっしゃいませー!」
「英徳大のサークルが来てるでしょ。」
総二郎のその質問に、
「お、奥の部屋です。」
と頬を赤くして答える店員。
奥の部屋に向かうと、座敷のふすまが半分開いていて、中の様子が伺える。
人数は20人くらいか。
女が若干多めだが、相変わらず牧野の隣にはあいつがいるのが目に入り、一気に苛立つ。
「まぁまぁ、司落ち着けって。
ここは俺らに任せろ。
牧野に来るなって言われたんだろ?それなのにそんな恐い顔で乗り込んだら、牧野ぶちキレるぞ。
」
確かにそうだ、そう思い黙って頷いた俺を見て、お祭りコンビが顔を見合わせたあと、襖を大きく開けて言った。
「おー、偶然だね~。
こんなところで英徳の顔ぶれを見るとは、なぁ、あきら。」
「マジ、すげー偶然。俺らもたまたまこの店に来たら、知った顔があって驚いたわ、なぁ、類。」
「そうだね、ほんと。」
最後の類は確実に棒読みで答えてやがるけど、一応協力してくれてるらしい。
俺らの突然の登場に、その場にいたサークルメンバーは一瞬静まりかえる。
そして、次の瞬間、
「ギャーウソーっ!」「F4よーっ。」
「西門さーん!」
「かっこいい!こんな近くでF4を拝めるなんてっ!」
「美作さん、ここに座ってください!」
「花沢さん、何飲みます?」
とあっという間にドンチャン騒ぎ。
これがお祭りコンビが言う『任せておけ』という意味なのかと頭を捻りたくもなるが、牧野にチラッと視線を送ると、じっと俺を睨んだあと、あからさまにため息をつきやがる。
「道明寺さんもこっちに座ってください。」
周囲からのその言葉も無視して迷わず牧野へと突進すると、
「あんたにしては遅かったじゃん。」
と意外な反応。
そして、
「どうなっても知らないからね。」
と呟いて、体を少し横に移動させ、俺を伊藤と牧野の間に座らせた。
牧野にすげー睨まれて、すげー嫌な顔をされると思ってた俺は、この意外な反応に嬉しくなったのも束の間、
「道明寺さーん、今日も一段とかっこいいですねぇー。」
と隣からの声。
ん?
誰だこいつ。
「間近で見るとほんと……タイプっす。」
ん?
今、なんて言った?
「…………牧野、こいつ酔ってるのか?」
「うん。かなりね。」
俺と牧野の視線の先には、デレッとした伊藤の顔。
「道明寺さん、なんの香水使ってるんですかぁー?すごくいい香りがします。」
「おいっ!」
俺の胸に顔を近付けてくる伊藤を寸でのところでかわして、
「牧野っ、こいつどーなってんだよ。」
そう叫ぶと、
「酔っぱらうと、素の伊藤くんが出るの。」
と牧野が言う。
「素の伊藤?」
「そう、彼ね、イケメン好きなの。
伊藤くんはね、女の子に興味ないのよ。
興味があるのは、イケメンの、しかもずば抜けたイケメンじゃなきゃダメみたい。
道明寺、おなかすいてないの?」
そう言って、俺の前に唐揚げを一つ置く牧野。
「…………マジかよ。」
いつものクールな印象の伊藤とはかけ離れた姿がここにある。
俺のことをうっとりと見つめる伊藤。
「道明寺さん…………。」
「…………。」
「道明寺さぁーん…………。」
「…………。」
「道明寺さぁーーーん。」
どんどん語尾がヤバくなってくる伊藤。
「牧野、こいつヤバくねーか……。席替われ。」
そう牧野に助けを求めた次の瞬間、
俺は顔に軽い衝撃を受けて……固まった。
「ギャハハハハー」
「ブホッ、アハハハっ」
「伊藤、マジかよっ!」
「いつものが出たなっ、まさか司も犠牲になるとは、ギャハハハーー」
俺は何が起こったのか分からなかった。
いや、分かりたくなかった。
伊藤から軽い衝撃を受けたあと、そのまま体を牧野の方にゆっくり反転させると、
牧野はすげー同情の目で俺を見て言った。
「どう?だから言ったでしょ?来るなって。
伊藤くん、酔うとキス魔になるの。
イケメン限定でね。」

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