VOICE〜ボイス 18

VOICE〜ボイス

道明寺とダイニングで激しくやりあった。
逃げるな…………。
そう言うあいつにあたしは反発したけど、
冷静になって考えてみると、道明寺が言ったことは当たってる。
あいつが帰ってきてからあたしは、
逃げて逃げて逃げまくってた。

タマさんにも

「きちんと坊っちゃんと話しておいで」

と促されダイニングをあとにする。

コンコン。
「道明寺?」

「おう、入れよ。」
そうっと部屋を開けると、デスクでパソコンと向き合ってる道明寺。

お互い気まずい雰囲気のままいつものソファに並んで座る。

「あのさ、道明寺。さっきは、」
ごめん。と言いかけたあたしの言葉を遮って、

「悪かったな。さっきは俺が言い過ぎた。
…………ごめん。」
と謝る道明寺。

そんな姿を見て、思わず言ってしまう。
「道明寺、あんた変わったね。」

「あ?」

「昔は人に謝るなんて出来ない男だったのに、いつの間に出来るようになったのよ。」

「おまえに言われたくねーよ。
おまえは他のやつにはすぐ謝るくせに、俺には絶対謝んねーよな。」

「そんなことないよっ。今だって謝ろうとしたのに、あんたが先に言ったから。
俺様なくせに、人に謝ることが出来るようになったなんて、成長したじゃない。」
あたしがからかうようにそう言うと、
なぜか真剣な顔になる道明寺。

「おまえにだけだ。」

「え?」

「俺が素直に謝るのはおまえにだけだ。
おまえとはくだらねぇことで喧嘩したくねーんだよ。
NYに行って痛いほどわかった。
おまえといる時間がどれだけ貴重かって。
だから、おまえといれる時間は1分1秒でも無駄にしたくねぇ。」

そんなことを真顔で言われて、なんて返していいのか分からない。
そんなあたしの顔を見て、

「おまえ、顔がいつも以上にブサイクになってるぞ。」
と笑うこいつ。

「……ちょっと!喧嘩したくないって言ってる人が言う台詞?」
そう言って道明寺の肩を思いっきりたたいてやると、

「ハハハッ、悪かった、ごめんごめん。」
と嬉しそうに言う。

「牧野、おまえさ、さっきデザート食べないで部屋に戻っただろ。
タマがあとで食べろって。」
そう言って道明寺が指差す方を見ると、ワンプレートにきれいに並べられたデザートたち。

「えっ、ほんと?嬉しいぃー。
甘いもの食べたかったんだよね~。」
あたしは、バニラビーンズがたっぷり入ったプリンを手に取り一口くちにいれ「おいしぃー」と唸る。
次はその横にあるチーズケーキ。
ふわふわの食感がたまらない。
そんなあたしをじっと見つめる道明寺。

「道明寺も食べる?」
フォークもスプーンも二人分用意されている。

「いや、俺はいい。」
そう言って、道明寺はデザートプレートの横にあるキャンディーボックス開けて、そこからアメを一つ取り出し口にポンと入れた。

「アメ?珍しいね道明寺がアメ食べるなんて。」

「そうか?」

「うん。なんのアメ?」

何気なく聞いたつもりのその言葉が、実は道明寺が待っていた台詞だったなんて…………。

「食べてみるか?」
そう言って不適な笑みを浮かべた道明寺が、突然あたしに近付いてくる。

「っ!な、なに?」

「なんのアメか自分で確かめろ。」

次の瞬間、あたしの唇は道明寺ので塞がれた。
いつもならゆっくり時間をかけて解きほぐされていく行程も、今日は性急に道明寺の舌があたしの中へ入り込んでくる。

そして、抵抗する間もないほどあっという間に離れていくその唇。

「…………ん?」

「何か分かるか?」

「…………ミント。」

「正解。」

道明寺の口からあたしの口へと渡ったアメ。
あたしの口の中でコロコロと転がしてみると、それはミントの味。

「ウゲェ…………。」

「プッ……相変わらずダメなのかよ。」

「ダメ、無理っ!」

昔からハッカ味のアメは苦手だった。
ミントもそれと変わらない。

「出してもいい?」

「もったいねーだろ。」

「でも、無理。」

泣きそうな顔で訴えたあたしに、また道明寺が近付いてくる。
そして、今度は焦らすようにあたしの唇を味わっていく。

「んー……道明寺っ、……」

そのゾクゾクする感触とミントの苦手な味に思わず変な声が漏れる。

「牧野、口あけて。」

「……んっ……くちゅ……」

言われるがまま薄く開いた唇から、道明寺の舌が潜り込んできて、器用にアメをすくっていく。
そして、口内に残るミントの辛さまで拭うようになかなか離してくれない。

「ど……道明寺っ……ん……くちゅ……」

やっと解放してくれた道明寺は、いつもより熱っぽい目であたしを見て言った。

「牧野、覚えてるか?
前にもこれと同じことがあったよな。
あのときもミントのアメをおまえからこうやって貰ったはずだ。
そして、そのあと、」

「……あ、……思い出した。」

そうだ。そんなことがあった。
あれは、道明寺がNYに旅立つ直前。
道明寺があたしをパソコンの前に座らせて、いつになく真剣な顔で言った。
「俺専用の携帯はいつも持ってろよ。」
そして、
「もしも、もしも何かあったときにこのページを開け。」
そう言って教えてくれたあたしたちだけの秘密のサイト。

あたしは、それを聞きながらデスクの上にあったアメを何気なく口にいれた。
それがミントのアメ。

口にいれた瞬間、あーやっちゃった、と思ったあたしに道明寺は苦笑しながら、
今みたいにゆっくりと時間をかけてあたしの口からアメを奪っていった。

そして、
「牧野、パスワード設定しろ。
このサイトに入るには必ずパスワードが必要だ。
俺とおまえだけが分かるパスワード。」

その道明寺の言葉に、あたしは少し考えて言った。

「ミント。」

「思い出したか?」

「……うん。パスワードのこと?」

「ああ。」

道明寺はあたしの手を引いて、あの時のようにパソコンの前に座らせる。
画面にはパスワードを入力するメッセージが。

後ろに立つ道明寺にちらっと視線を送ると、
パスワードを入れろと目で合図をされる。
あたしはパソコンに向き直り、恐る恐るキーボードを打った。

『mint』

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