VOICE〜ボイス 17

VOICE〜ボイス

邸に着いたのは日が暮れてからだった。

「牧野さん、お元気でしたか?」

「はい、皆さんもお元気そうで。」

俺なんか完全に無視して牧野を中心に再会を喜び会う使用人たち。

「牧野、行くぞ。」

「あ、あんた先に行ってて。あたしもう少しみんなと話して行くから。」

ふざけんなっ。
俺ともろくに話してねーのに、置いていけるかっ。

「いいから行くぞ。」

「あっ、ちょっと、道明寺っ!自分で歩けるから下ろしてっ!」

牧野を小脇に抱えあげ、とりあえず東の角部屋に移動する。

「なんか……懐かしい。
変わってないね。」
そう呟く牧野は入り口に立ったまま部屋を見回している。

「部屋の主が留守だったのに変わってたまるか。入れよ。」
昔もそうだったように、部屋に置かれたソファに並んで座る俺たち。

「牧野、おまえに……」
話がある。そう言おうとした俺の言葉を遮って、

「タマさんっ。そうだよ、タマさんの様子見てこなきゃ!風邪で寝込んでるって。あたしタマさんの部屋に行ってくる。」
そう言って立ち上がるこいつ。

都合が悪くなったり、キョドってる時のこいつの特徴は早口でよくしゃべること。
今の牧野がそれ。

俺はそんなこいつに苦笑しながら、
「俺も行く。」
そう言って軽く牧野の頭を小突いた。

まぁ、今日は外泊届けも出してきているし、話はあとでゆっくり出来るだろう。

二人でタマの部屋を見に行くが、誰もいない。
使用人が使う休憩部屋にも……いない。
ぐるぐると広い邸の中をタマを探して二人で歩く。

すると、ダイニングでタマを発見。
「タマ、なにやってんだ?」

「坊っちゃん、なにって食事の用意ですよ。」

「それは見れば分かるけどよ、タマ具合は?」

「なんですか具合って?
またタマが死にそうだとか、からかって。」

「ちげーよ。風邪で寝込んでるってババァが言ってたぞ。」
そういう俺に、少し考えている様子のタマが、

「奥様も二人のことになると甘々なんですから……。」
と呟き、
「そうです、タマはさっきまで風邪で寝込んでいましたけど、もう元気になりましたのでご安心を。
さぁ、食事にしましょ!」
そう言っていつも以上にでけー声を張り上げて俺たちを席に座らせた。

隣に座る牧野は相変わらず、うまそうに飯を食う。
時折、「おいしいっ。」とか「これ何だろう。」
とか言いながら目をキラキラさせて食べる姿はすげー可愛くて目が離せねえ。

「おまえ、あんまり飲むなよ。」

「え、だってこれすごく美味しいんだもん。」
そう言う牧野の手にはワイングラス。

「甘いけど、度数は相当きついからな。」

「ん、へーき。」

「それぐらいにしとけ。
残りはあとで俺の部屋で飲もうぜ。」
俺がそう言うと、

「ここで解散じゃないの?」
と言ってくるバカ女。

「…………その冗談、全然面白くねぇ。」

「冗談じゃないし。」

「なら本気か?もっとたちがわりぃ。」

「…………。」

一瞬にしてピリピリとした俺たちの雰囲気に、気間ずそうに視線をそらす使用人たち。

「牧野、ここに来たのはタマの見舞いだけが目的か?」

「……どういう意味?」

「おまえさ、この間の『イエス』は嘘じゃねーよな?」

「え?……それは…………」

「ここでもう一度聞いてやろうか?」
離れた場所にいるとはいえ、俺たちの会話は使用人たちにも聞こえているはず。

「……聞かなくていい。」

「牧野、逃げんな。……頼むから逃げるな。」

「……なにそれ。」

「追いかけて追いかけてやっと捕まえたと思っても、おまえすぐに逃げるじゃん。」
俺はそう言って持ってたフォークを置いて、深くため息をつく。

「はぁ?あたしのどこが逃げてるって言うのよっ。そもそも飽きもせず追い掛けてくる方が問題だと思うけどっ!」

「飽きもせずって………おまえに飽きるわけねーだろバカっ。」

「っ!そういうこと言ってるんじゃなくて、
恋人でもないのに待ち伏せしたり、部屋に押し掛けたり、あんたストーカーだからねそれ。」

「おまえ頭おかしいだろ。
いつから俺たちは恋人じゃなくなったんだよ。」

「ずっと前から。」

「誰がそんなこと言ったっ。」

「あんた。」

「だから、それはっ、」

「道明寺司があたしのことを『友達』だって金髪彼女に紹介したの、あんた忘れたの?」
そう言って一気にグラスを空ける牧野。

「バカっ、一気に飲むなっ。」
牧野の手からグラスを奪い、赤ワインで染められた唇を親指で優しく拭ってやる。

「全部おまえの誤解だ。
そのこともおまえにきちんと話したい。」

「……今更、何も聞きたくない。」

何も聞かず、何も言わず、このまま俺とのことを終わりにするつもりか。
イエスと言った言葉も、深く交わしたキスも、
その時だけの夢だったかのように、
次の日には泡となって消えていく。

「ほらな?また逃げるだろ?
おまえはそういう女じゃねーだろ。
いつだって、逃げずに俺に立ち向かってくるだろっ。
俺はそういうおまえに心底惚れてんだよっ。
だから今回もぶつかってこいよっ!」

まっすぐこいつの目を見て言ってやる。
負けず嫌いのこいつなら、きっと…………。

「分かったわよっ。逃げずに聞いてあげるっ。
あたしたちがこんな関係になっちゃった理由をね!」

こんな風にしたかった訳じゃねーのに、結果は最も俺ららしい展開。
「相変わらずですね…………。」
どこから聞いていたのか、タマが呆れた顔で俺を見る。


「さっきのあれって、喧嘩なの?」

「あー、あれ?
お二人は喧嘩してるんだろうけど、聞いてるこっちは赤面しちゃうよね。」

「やっぱり?あたしもなんか恥ずかしくなっちゃって。
牧野さんってすごいわ。」

「司様の甘いノロケも完璧にスルーだもんね。」

「『おまえに飽きるわけがない』とか、
『そういうおまえに心底惚れてる。』とか、
あれ、普通なら一発で落ちるレベルなんだけど、牧野さんには全然通用しないみたい。」

「司様、気の毒だわ~。」

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