VOICE〜ボイス 16

VOICE〜ボイス
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NYに旅立って1年間、俺と牧野はそれまで以上に深く繋がっていた。
日本ではろくに恋人らしい時間を過ごせなかった二人。
キス止まりの関係も、次こそ会えたときには……そんな風に思いながらもどかしい気持ちで電話していたあの頃。

それが1年を過ぎた辺りから雲行きが怪しくなった。
俺の周りで少しずつ嫌な動きが出始めたのだ。
はじめはババァに俺の結婚を打診する動きがあったらしいが、それをババァははね除けた。

そのあと、あるパーティーで俺と同じ歳の娘を連れた男を紹介される。
魂胆は見え見えだった。
その金髪の愛娘を俺の結婚相手にと。
そこで、俺ははっきりと言ってやった。

『俺には好きな女がいる』と。

けど、この男、相手が悪かった。
NYで手広くレストラン業をしている裏で、ラスベガスでカジノも経営していて、総資産は道明寺とたいを張る勢いだった。
その資産と剛腕っぷりで、裏社会でも名が知れる男だったらしい。

だからといって、結婚に関して俺が簡単に従うはずもなく、ましてや牧野を手放すつもりも毛頭ない。
だから、俺は終始強気でいった。

それがかえって逆効果だった。
裏社会でも通用するほど恐れられているやつに怯むことなく突っぱねる若造をえらく気に入ったこいつは、更に強く俺を婿にしたいと誘ってきた。

その誘いが徐々にエスカレートし、全然なびかない俺に腹をたて、怒鳴り、脅しにまで発展していく。
『好きな女がいる。』
俺の言葉を忘れていなかったやつは、俺の周辺を徹底的にかぎまわっていた。

早い段階で牧野のことはバレた。
日本にいる間に付き合ってた唯一の女だと知ったやつらはすぐに俺に話を持ってきた。
『大事な女に何かあってから後悔しても遅いぞ』と。

それが何を意味しているのか…………。
ただの脅しではないことはすぐに分かった。
牧野の普段の姿が撮られた写真が俺のオフィスに送られてきた。

相手はもう牧野の側にいる。
俺は覚悟を決めた。

牧野と、俺の言う『好きな女』は無関係だと相手に分からせるため、あいつと距離をおくことにした。
携帯、メール、邸の電話、すべてが監視されているだろう。
だから、身を引き裂かれる思いで連絡をたった。

そのころ、事情を重く受け止めたババァが、日本に帰り牧野を守るため寮を設立した。
万全の体制で牧野を守ると約束してくれ、俺は自分の手で出来ねぇことを頼むしかなかった。

そんな俺にも唯一救いがあった。
それはやつの愛娘の存在。
彼女は政略結婚の相手でもあり憎むべき女だが、
彼女にも俺と同じように『好きな男』がいた。

幼馴染みとして育ち、今は新進気鋭のグラフィックデザイナーとして芽を出しはじめた男。
彼女は父親の反対を受けながらも、その男を愛していた。

そんな同じような境遇の俺と彼女の利害は一致し、政略結婚を阻止するため協力し合うことで手を組み、長い期間をかけ父親を説得することにした。

牧野がNYに来たときは、まさに俺と牧野の関係が終わったものと思わせたかった時で、しかも俺の背後にはやつらの手下がいて、俺らの会話を盗み聞きしていた。
だから、俺はわざと
『友達だ』と強調して言ったことをあいつは今も誤解してるらしい。

そして、日本に帰ってきてからここ数日まで眠る暇もないほど忙しかったのは、娘とデザイナーの男が晴れて式をあげ、その段取りをすべてメープルで取り仕切っていたからだ。

政略結婚を阻止するため、俺はそのデザイナーの男に目をつけた。
ただのそこらにいるような男なら俺もそんなせこい手は使わねぇ。
けど、その男の作る作品は斬新で繊細、今までにない発想で俺の目を引いた。

すぐにそいつと独占契約を結んだ俺は、メープルの小ホールで個展を開くことにした。
それが…………大当りだった。

NYの有名な雑誌が取り上げる今年最も活躍した芸術家にも選ばれ、その甘いフェイスでCMやテレビ出演も殺到した。
NYでは今じゃ俺よりも有名で、知名度も高い。

そんな男を娘の父親はほっとくはずがない。
今まで俺にしか興味がなかった父親も、地位も名誉も金も作り出す娘の彼氏を手放すはずもなく、手のひらをかえしたように将来の婿として受け入れた。

そして、独占契約を結んでいる俺は、その契約を父親に譲る代わりに、今後一切俺と牧野に近付かないと誓わせた。

言葉で表せば、この2年なんてあっという間に語れるだろう。
けど、その間、俺の精神はズタズタになった。
牧野に何かあったら…………そう思うだけで眠れない日々が続いた。
だからといってあいつの側に行くことも出来ない。
行けば牧野を失うかもしれない。
死ぬほど辛い日々だった。

だから、送り続けた。
牧野へ向けてメッセージを。

3年前、NYへ旅立つ頃、邸の俺の部屋で牧野をパソコンの前に座らせた。

「牧野、俺が渡した携帯持ってるよな?」

「うん、持ってる。」

「いつも持ってろ。俺専用だからなくすなよ。」

そんな会話のあとに俺はパソコンを開いて言った。

「それと、もしも、もしも何かあったとき、このページを開け。」

「……なに、これ。」

「俺とおまえだけが知ってる秘密のサイトだ。
書き込めるのは俺だけだけど、パスワードを知ってるやつは見ることができる。
そのパスワードを知ってるのはおまえだけだ。
いいな?」

「ん、わかった。」

その『もしも』を使うことになるとは俺自身も想定していなかった。
だけど、監視下にいる中、牧野が見てくれてると信じてそこにメッセージを送り続けることしか出来なかった2年間。

牧野は俺とそんな会話をしたことを覚えているだろうか。
「あいつの記憶を信じた俺が間違ってたか?」
そう苦笑しながら、俺は牧野を迎えに行くため寮に向かった。

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