VOICE〜ボイス 15

VOICE〜ボイス

デジャブ…………。

ついこの前もこの場所でこんなやりとりをした記憶が。
目の前には理事長である道明寺のお母さん、そしてあたしたちは二人ならんで立たされている。

「先程、何者かに寮の電気ブレーカーが壊されました。
カメラで確認すると、あなたが写っていたわ。
どういうことかしら?」

「わざとじゃねーよ。
たまたま出てた線を引っ張ったらそうなっただけだ。」

言い訳もここまで適当だと、逆に清々しい。

「そう。でも、ここからが問題よ。
あなたはそのあと自室ではなく牧野さんの部屋に行ってるわね。
それもカメラに写っています。」

「あの暗い中、カメラに写ってるのが俺だと特定出来るのかよ。」

「ええ。出来ます。
ここに取り付けてあるカメラには暗視カメラもありますからね。
あなたが言ったのよ。
牧野さんがこの寮に入ることが決まったときに、セキュリティも警備もカメラも完璧にしてくれって。
自分がそれに引っ掛かってどうするんですか。」

「ッチ。」

あたしはただ道明寺と理事長のやりとりを黙って聞いてると、急に名前を呼ばれてドキリとする。

「牧野さん、今回もあなたが計画したとは思えないけれど、司を部屋に入れた時点で同罪とします。」

「…………はい。」

「二人はペナルティ2回目。
あと1回で停学よ。
門限7時は10日間延長。いいわね?」

「はい。」
「おう。」

「もう遅いから戻っていいわ。」

あたしたちは揃って理事長室を出ようとしたところで、後ろから声がかかる。

「もっと計画的に行動しなさい。
なにも規則を破らなくても二人で過ごすことは可能でしょ?
9時までに延長届けや外泊届けを出せばいくらでも二人でいられるはずよ。」

「罰則期間中は無理だろ。」

「いいえ、例外はあるわ。」
そう言って不適な笑みを浮かべる理事長。

「親族もしくはそれに近い人に病人が出た場合は罰則期間中も届けを出せば認められる。
確か…………昨日からタマが風邪を引いて寝込んでいるはず。
あなたたちにとってタマは親族に近い人じゃないかしら。」

さすが、この人は道明寺の母親だ。

「サンキュッ!」

そして、確実にその血を受け継いだこの暴走男は嬉しそうにそう言ってあたしの手を取って部屋を出た。

男子寮と女子寮の境目。
そこに立つあたしたち。

「明日、外泊届けだしとけよ。」

「はぁ?」

「夕方には仕事終わらせる。
ここに迎えに来るから用意しとけ。」

「なんでよ。」

「なんでよっておまえ、さっきのババァの話し聞いてなかったのかよ。
タマが今にも死にそうなんだぞ?それなのにおまえは見舞いにも行かねぇのか。相変わらず冷てー女だな。」

死にそうなんてひとつも言ってない。
自分の都合のいいように解釈するのが得意中の得意な男。

「とにかく、迎えに来る。
残りペナルティは1回しかねーからな。
俺に暴走させるなよ。」

暴走させてるのがあたしのせいだとでも言いたいのか、あたしの頬をムギュッとつねる道明寺。

「わかったからっ。じゃあね。」

「おう。」


女子寮に消えていく牧野を見つめる俺に、

「坊っちゃんのそんな顔を見るのは初めてですよ。」
と寮母の鶴の声。

「鶴か。」

「タマさんから、坊っちゃんが牧野さんを溺愛してるとは聞いてましたけど、まさかここまでとは知りませんでした。」
と笑う鶴。
タマと鶴は旧知の仲だ。
ババァに気を許された信頼おける数少ない使用人だった。

「ったく、捕まえても捕まえても逃げるんだよあいつは。」
愚痴りたくもなる。
やっと言わせたイエスの言葉も、どこまでが本気でどれだけの効力があるのかわからない。

「4年たった今も、俺の片想いなのかもしれねぇ。」
少しだけ弱気になってそう呟いた俺に、
鶴が笑う。

「坊っちゃん、あの子もいつだったか同じことを呟いてましたよ。」

「え?」

「坊っちゃんが日本に帰ってくる前、寮の共有スペースにいつも朝早く彼女がいるんです。
新聞を熱心に読んでいる姿が印象的で、『いつも偉いわね』って声をかけてその新聞を見ると、NYタイムズ紙だったんですよ。
それから何回か話すようになって、いつだったか彼女が言ったんです。
もう会うこともないかもしれないけど、あの人には元気でいてほしい。幸せでいてほしいって。
だから、私言ったんです。
『会いに行けば?』って。
そしたら、一言、『あたしの片想いだから』って。」

「……牧野が……?」

「その時の彼女も今の坊っちゃんと同じ顔してました。
好きで好きで堪らないって…………。
青春ですねー。」

死ぬほど恋しかったこの数年。
電話も、会うことさえも控えていた理由をあいつに話さずにいられるならそうしたい。
なぜなら、怖がらせたくないから。

でも、
『元気でいてほしい。幸せでいてほしい。』
そんな風に俺とのことを終わらせようとしていたあいつを思うと、牧野を守ろうと必死だった俺の考えが間違っていたのかもしれねぇ。

俺にとっておまえがすべてだ。
それはおまえと出会ってから一度も変わらない
俺の想い。

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