「もしもしっ!」
「……道明寺?」
「いってぇー。」
慌ててバスルームから飛び出してきた俺は、思いっきり扉に足の小指を打ち付けて、電話を耳に当てながら悶絶してる。
「道明寺っ!どうしたの?大丈夫っ?
どっか痛いの?」
「……いや、……なんともない。」
やっと痛みが治まってきてなんとかそれだけ言う俺に、
「病院は?昨日お医者さんになんて言われたの?
前から痛みがあったの?」
電話の向こうでパニクってる牧野。
たぶん昨日俺が倒れたことをこいつは知っていて、今の痛みもそれと勘違いしてんだろう。
「プッ……ちげーよ。
足の小指、壁にぶつけた。」
「…………はぁ?」
「だから、今電話に出ようとして、小指を思いっきりぶつけたんだよ。」
「……痛いって、」
「小指。」
長い沈黙のあと、
すげー怒るんだろうな。
すげー怒鳴るんだろうな。
すげーギャンギャン騒ぐんだろうな。
そう思ってニヤついていると、
なぜか黙ったままの牧野。
「牧野?」
「……バカ。バカバカ……バカ。」
言ってることは想像通りなのに、こいつの声は涙で詰まる。
「牧野。」
「もうっ、知らないっ。」
「悪かった。泣くなって。」
「バカッ。」
「おまえに泣かれると弱いんだよ。
……泣くな。」
「…………花沢類から……んっ……聞いた。
具合どうなの?」
「なんともねーよ。」
「ちゃんと、調べてもらったの?グスッ」
「ああ。」
牧野が俺を心配してくれてる。
ただそれだけで、胸が締め付けられるほど恋しい。
「今日、どこにいたのよっ?
ずっと探してたんだから。
美作さんにも、西門さんにも、花沢類にも電話してもらったのに、どうして出ないのよっ。」
「タマが邸に来いって言うから行ってた。
死ぬほど食べさせられて、退屈すぎるほど休まされた。」
「そうなんだ。それで?元気になったの?」
「……ああ。今ようやくなった。」
「……ん?」
「おまえの声聞いて、やっと元気になった。」
小さな機械から聞こえてくる牧野の声だけで、全身が満ち足りていく。
昔も今も俺をそんな気持ちにするのは、こいつだけ。
「なぁ、牧野。」
「……ん?」
「好きだ。」
「…………。」
「すげー好き。」
「…………。」
「なんか言えって。」
「もう遅いから寝な。」
プッ……相変わらず逃げるどーしようもねぇ愛しい女。
「おまえ知ってるだろ俺が寝れねぇの。
たぶん今日も眠れねぇな。
おまえからの返事聞かねぇと朝まで気になって寝れねぇ。」
「調子にのるなッ。」
「へーそうかよ。おまえは俺がまた倒れてもいいんだな?
冷てー女だな。」
「んなこと言ってないでしょ!」
「なら、もう一度言うから返事しろ。
……牧野、おまえが好きだ。
おまえは?」
「…………今度会ったときに返事する。」
どこまでもズルい女。
でも、こういうところもめちゃくちゃ堪らない。
「おまえさ、それで逃げたと思ってんの?
残念。俺は逃がさねーよ。
10分後にそっちに行くから待ってろ。」
「えっ?」
「返事、用意しとけよ。」
わかってる。
見なくてもわかってる。
もう時計の針が10時を過ぎた頃だってことを。
けど、どうしても会いたい。
声だけじゃ……足りない。
触れて、抱きしめて、目を見て言いたい。
『俺にとっておまえがすべてだ。』と。

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