息を切らしてあたしの部屋に飛び込んだ道明寺とあたし。
ハァハァハァ…………
ハァハァ……プッ……はははっー。
扉の前で息を整えるあたしの横で、急に笑い出す道明寺。
「ちょっと!……ハァ……何、笑ってんのよっ。
あんた見つかったらどうするつもりっ!」
「ばかっ、でけー声出すな。
見つかんなかっただろ?
すげースリル。久々に焦ったな。」
そう言いながら勝手にあたしの部屋に入り込むこいつ。
「ちょっ………待って……あのさ、
ほんとに牛乳飲むつもり?」
「おまえが飲めって言ったんだろ。」
「いや、そーだけど…………」
心の準備が出来ていない。
まさか、こんなことになるとは思っていなかったから、部屋の中だって見せたくないものがあちこちに散らばっている。
「あのぉー、あのね、すぐに牛乳用意するけど、
その前に少しだけ目閉じててくれない?」
「あ?」
「だから、……ちょっと!キョロキョロしないでっバカっ。
それ以上キョロキョロしたら牛乳出さないからねっ。」
「ハハハ。わかったわかった。
目閉じてればいーんだろ?」
「ん。」
部屋の真ん中で突っ立ったまま目を閉じた道明寺。
それを確認して、あたしは急いで部屋の中にある
『見せたくないもの』たちを隠した。
「目開けていいよ。」
「……エロい下着つけてんじゃねーよ。」
「っ!見たのっ?!バカァーーー!」
さっきお風呂に入ったときに手洗いした下着たちが部屋の隅に干してあったのを、慌てて隠した
のに、めざとくこいつは見ていたなんてっ。
「うるせーって。
よし、牧野牛乳作ってこい。
その間、俺が部屋を点検しとく。」
「何よ点検って。やめて変態。」
「男の影がねぇか、確かめてやる。」
「あんた殺すよ。
おとなしくそこのソファに座ってて。
立ち上がったら、即退場だからね。」
あたしはソファに道明寺を強引に座らせて部屋の奥にあるミニキッチンへと向かった。
冷蔵庫にちょうど二人分の牛乳が残っていた。
小鍋にそれをいれて少しだけハチミツをたらしてやる。
こんな時間に、こんな労力をかけて、こんなのを飲むくらいなら、おとなしくベッドに横になっていた方がはるかに早く眠れるんじゃないかと思う。
それに、この牛乳を飲むためにあいつはいくら犠牲にしたんだろう。
あの割ったカップやグラスはどうにかして道明寺に弁償させよう。
そんなことを考えていると、ふと、大事なことに気付く。
ここに来たのはいいけど、いや、良くはないけど、あいつ帰りはどうすんだろ。
ここから出ても、鶴さんに見つからないように自分の部屋に戻れるんだろうか。
あたしは鍋を火からおろして、慌てて部屋へ戻る。
「ねぇ、道明寺。
あんたさ、帰りはどうすんのよ。」
ソファにいる道明寺にそう声をかけても、
返事がない。
「道明寺、」
側に近付いてみて……わかった。
眠ってる。
道明寺が眠ってる。
穏やかな顔で小さくスースーと寝息をたてながら
眠ってる。
そんなこいつを見ながら
「牛乳、どうすんのよ。」
そう呟くあたしの顔も、自分でもわかるほどニヤけてる。
久しぶりに深い眠りについて、自然と目が覚める。
視界に映る景色がいつもと違って見える。
まだ夢の中か…………、
そう思った瞬間、昨夜の出来事がフラッシュバックした。
ヤベッ、眠っちまった。
牧野の部屋のソファでそのまま眠ったらしい。
体には薄い布団までかけられてて、どんだけ自分が爆睡したのか計り知れない。
せっかくの牧野との時間を自ら台無しにしたのかと呆れる一方、あれだけ薬がないと、いや薬を飲んでも眠れなかった日々が嘘のように感じられるほど、気持ちいい目覚めだった。
時計を見ると6時半。
部屋をぐるりと見渡すと、ベッドで眠る牧野の姿。
俺はゆっくりとこいつに近付いていく。
化粧っけのない幼い寝顔。
布団からのぞく白い首筋や、細い腕。
それに引き寄せられるように、俺は静かにベッドの上へ乗り上げると、牧野のからだの横に滑り込んだ。
そっと牧野の頭の下に腕を通し、俺の方に引き寄せる。
あったけー。そして柔らかい。
こうしてるだけで、再び深い眠りに入れそうなほど気持ちがいい。
少しだけ腕に力を入れて引き寄せると、ビクッとこいつのからだが動いた。
そして、起きる気配。
俺は寝たふりをする。
「っ!…………えっ。」
パニクってる牧野。
俺の腕の中から抜け出そうともがいているが、そうはさせない。
ジタバタと暴れたあと、無理だと観念したのか、
「道明寺っ!」
と俺の耳めがけてでけー声で叫びやがる。
「うるせーんだよ。」
「っ!あんた起きてたの?」
「……ああ。」
「信じらんないっ、ちょっと離してよ。」
「やだね、暴れるな。」
「この変態っ、……バフ……ドカ……ドン」
「それ以上暴れたらキスするぞ。」
ピタッと動きが止まるこいつ。
そんなにキスされるのが嫌なのかよ。
俺でも傷つくからやめろ。
「……道明寺、離してよ。」
「……もう少しだけこのままでいさせろ。」
「…………。」
「牧野、ありがとな。」
「え?」
「……あきらから聞いたんだろ?」
「…………。」
「何年も眠れねぇ生活してきたけど、久々にぐっすり寝た。
おまえのおかげだ。」
そう言ってこいつを見ると、心配そうな、不安そうな、悲しそうな顔で俺を見つめてくる。
「牧野、あの携帯、捨ててなかったんだな。」
「えっ。」
「嘘ついたのかよ。」
昨日、この部屋に来たとき、こいつの机の上に懐かしいあのゴールドの携帯が置かれているのを見つけた。
そのあとすぐにこいつはどこかに隠したらしいけど、俺は捨ててなかったその携帯を見て、なぜだか目の奥が熱くなった。
「充電しとけよ。」
「使わないもん。」
「使う。」
「使わない。」
抱きしめたまま、そんなやり取りも楽しい。
「なぁ、嘘ついたお仕置き。」
俺はそう言って、横になる牧野を真上から見つめて、
「ずっとこうしたかった。」
そう言い何年かぶりに……キスをした。
チュ…………
すぐに離した唇。
でけー目を更にでかくして固まったあと、文句を言うため開けられた唇を
今度は長く深いキスでふさぐ。
はじめはキスをされたまま文句を言ってたこいつも、俺の容赦ない攻撃に観念したのか、段々と力が抜けてくる。
そして、仕掛けたはずの俺もそろそろ限界で、キスだけじゃ抑えられない。
一度唇を離し、牧野を見つめると、潤んだ目で俺を睨んでくる。
バカ、その顔が俺を煽ることをこいつは分かっていない。
「牧野、エロい下着、見せて。」
そんな卑猥な言葉を言いながら、薄いシャツの下に手を滑り込ませる。
…………とその時、
トントン。と部屋をノックする音。
トントン……。
トントン……。
ドンドンっ!
俺らの甘い時間は相変わらず、そう簡単に進まないらしい。
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