小話 (司VS滋ちゃん 3)

小話

年下の彼氏ができて1ヶ月。
あたしを「初恋」だと言う彼との恋愛は、初々しくてキュンキュンさせてくれる。

見た目も性格も良し。
お金だって一生困る事のないだろう彼。
不満なんて一つもないはずなのに……。



仕事の付き合いで小さなパーティーに顔を出した。
そこには珍しく司の姿も。
ビジネスモードの笑みを作りながら、オーラだだ漏れの男。

「滋も来てたのか。」

「うん。司も珍しいね。」

ようやく人混みから開放された司が、あたしの隣に来た。

「おまえも社長と知り合いか?」

「ん、昔からパパのゴルフ仲間なの。
司は?」

「去年、ある仕事で一緒になった。」

「ふーん。そーなんだ。」

いつものようにとりとめない話をしながらグラスに口を付けたところで、司が言った。

「滋、このあと少し時間あるか?」

「ん?」

「上のバーで少し飲みなおそうぜ。」

これが数年前のあたしなら、胸がバクバクするほど舞い上がっただろう。
でも、今は、この男にはベタぼれの彼女がいる事を知っている。

「いいけど…、なに?つくしと喧嘩でもした?」

「あ?してねーよ。」

「じゃあ、何か相談ごと?」

「あったとしてもおまえには相談しねー。」

相変わらず可愛くないバカ。
でも、何もなくて彼女以外の女を誘うはずがない。

「一時間後にバーでな。」

そう言い残し、司が離れていった。



バーのカウンターでカクテルを呑みながら司を待っていると、入り口にスーツ姿の司が現れた。
そのまま、まっすぐにあたしへ近付いてくる。
周りのお客さんも司の存在に気づき、チラチラと見ている。

「わりぃ、遅くなった。」

「ううん。へーき。」

これが彼氏彼女の会話ならいーのになぁなんて馬鹿みたいな事を考えて、思いっきり頭をブンブン振ってみる。

「司があたしを誘うなんて珍しいー。」

「たまには男同士で腹を割って話そうぜ。」

「誰が男よっ!」

いつものジョーク混じりの会話。
つくしを意識して、極力男女の会話にならないよう司が意識しているのはわかる。
そして、そんな掛け合いが今ではあたしも心地よい。

少しお酒が進んだ頃、司が言った。

「あきらから連絡きたか?」

あー、今日呼び出したのはあきらくんのことか。

「んー、あのあと、ごめんって謝りの連絡はきたけど、それっきり。」

「ったく。」

2週間ほど前、久々にF4とつくし、桜子、あたしでディナーの約束をしていた。
でも、その日は彼とのデートの日だったあたしは、もちろんキャンセル。

夜九時を回った頃、彼にお父様から連絡が来て、急に実家に帰ることになった。
それで、残されたあたしはつくしに連絡をして、みんながいるお店に合流したのだ。

店までタクシーに乗るほどでもなかったから、彼と別れたあと歩いて店に向かっていた途中、突然雨が降ってきた。

デートだったから足元はピンヒール。
いつもより短めのノースリーブワンピース。
ショートの髪はしっとりとボリュームがなくなるほど濡れた。

そんな状態でみんなが待つ個室のお店にたどり着いたあたし。
合流するなり、あきらくんがあたしを見て、なぜか不機嫌になり、彼氏とは別れろと言って怒ったまま帰ってしまったのだ。

「あきらくんが怒ったの初めて見たからびっくりしたわ。」

「あいつ、あんまり感情出さねーから。」

「うん。それなのに、あたし怒らせちゃって…。」

未だに、なぜあきらくんがあんなに激怒したのか分からない。
それを見透かすように、司が言う。

「おまえの彼氏、年下だったよな。」

「うん。」

「おまえ、ちゃんと大事にされてるか?」

「何よそれー。」

思わず笑っちゃうあたしに、司は真剣な顔で聞く。

「おまえのこと、大切にしてくれてるか?」

大切に……か。
彼氏は優しい。
あたしを想ってくれてるのはきちんと伝わってくる。

ただ、あたしが今までどっぷりぬるま湯に浸かって生きてきたからか、彼氏の優しさが少しだけ足りなく思うことも正直ある。

だって、年下だもん。
だって、初恋だもん。

そんな風に自分をごまかしてきたけれど、司の言葉が胸にズキンと痛い。

「俺は、大事な女にあんな格好はさせねーよ。
どうしても送ってやれねーなら、タクシーに乗せる。いくらあったけー日でも、肩が出てる服装なら上着をかけてやる。雨が降ってきたなら、そのあとちゃんと店にたどり着いたか電話する。
あの日のおまえは、酷い格好だったぞ。」

「……分かってる。」

「俺は死んでも牧野にあんな思いはさせねぇけどな。」

「うん。」

「あきらがブチ切れるのもわかるだろ?」

「…うん。」

女性に優しい彼なら、怒るのは当たり前だろう。
俯くあたしに、司は少しだけ笑いながらあたしの頭をコツンと突いて言った。

「そして、ここからが大事なんだけどよ。」

「…ん?」

「俺は、牧野以外のどうでもいい女だったら、雨に打たれようが、一人で遅い時間歩いて来ようが関係ねぇ。」

「フッ…、でしょうね。」

「それは、あきらも同じだと思うぜ。」

司が何を言いたいのか分からないあたし。

「だから、あきらがあんだけ怒ったのには意味があるんじゃねーの?」

「……、えっ?えっ、……待って、それって」

「うっせーな声でけぇ。」

「ごめんっ!でもっ、」

司の言いたい事があたしの考えてる事と同じなら……。

「あいつにとっておまえは、雑に扱われるのが嫌なほど大事な女なんじゃねーのかなと思っただけだ。
あとは、直接あきらに聞けよ。」

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