日本に戻って1週間。
バタバタと慌ただしく時間に追われ、プライベートな時を過ごせないままあっという間に時間が過ぎていった。
午前中は大学で経営学の講義を詰め込めるだけ詰め込み、講義が終わると次は会社に顔を出してババァの下で現在進行形の仕事を手伝う。
そんな日々を過ごしていて、学部も違う牧野とはゆっくり会う時間が取れていないのが現況。
なんとか、時間を作りたいと思っているけど、
なかなか思い通りにいかなくて、
今日も大学と会社の合間に少し時間が取れるかと思ったが、西田がクリニックでのカウンセリングを入れやがった。
疲れている上に、相変わらず眠れない。
月に一度、睡眠導入材を貰いに病院に通って2年目になる。
診察を受ける時間は勿体無いが、俺にとっては薬がないと致命的。
せっかくの空いた時間も診察を優先させるしかない。
完全予約制のクリニックで簡単にカウンセリングを受けて、病室を出たところで、胸ポケットの携帯が振動する。
画面を見るとあきらの文字。
「もしもし?」
「司か?」
「おう、どうした。」
「今日は大学来ないのか?」
そう話すあきらの背後でざわざわと話し声が聞こえる。
「午前中に行ってきた。
おまえは?」
「今着いたとこ。司が来てないかと思って校内ブラついてたら牧野に会って、今お茶してたとこだ。
おまえに知らせたら飛んでくんじゃねーかと思って。」
行きてぇのはやまやまだけど、これから社に行かなくちゃなんねぇ。
「これから仕事だ。
わりぃ、行けそうにねーわ。」
そう答えたとき、クリニックの受付から俺を呼ぶ声がした。
それに反応してあきらが、
「司、今どこにいる?」
と聞いてくる。
「……ちょっとな。」
曖昧に答えると俺に、
「病院か?」
と声のトーンを落として聞いてくる。
「…………ああ。いつもの貰いに来ただけだ。
牧野には言うなよ。」
そう言って電話を切った。
大学の講義の合間、自動販売機の前で何を買おうか悩んでいると、後ろから名前を呼ばれて振り返る。
「牧野。」
「美作さん。」
相変わらず面倒見のいい彼は、いつもあたしを見つけると声をかけてくれる。
「時間あるなら、付き合えよ。」
そう言って自動販売機で飲み物を買おうとしてたあたしをカフェテリアに連れていき、特上のコーヒーをご馳走してくれた。
「司とはどうだ?」
「どうって、……何もないけど。」
「会ってないのか?」
「あいつが日本に帰ってきた日は久しぶりに少し話したけど、そのあとはほとんど顔を見てないかな。」
そう話すあたしに、苦笑いをしながら、
「あいつも相当忙しいんだろ、許してやれ。」
そう言う美作さん。
そして、ふいにあたしの右手にある例のブレスレットを見つけて、
「もしかして司から?」
と聞いてくる。
「そうっ!美作さん、これ取ってくれる?
この金具がなかなか難しくて取れないのっ。」
美作さんを利用して取ろうとするあたしに、
「プッ……司のやつここまでしてんのかよ。」
と意味不明なことを言って、
「どうせなら、本人に取ってもらえ。」
そう言って携帯を取り出してどこかにかけ始めた。
黙ってみていると、どうやら道明寺にかけているらしい。
おまえも来いと誘う美作さんに、道明寺はどうやら断っている様子。
そんなあいつの態度になぜか不機嫌になるあたし。
好きだと言っておきながら、
相変わらずほったらかしなんですけどっ!
そう思いながらコーヒーをがぶ飲みするあたしの横で、美作さんが少しだけ声のトーンを抑えて、
「病院か?」
と聞いたような気がする。
電話を切った美作さんが、
「司は仕事らしい。」
と言いながら深くため息をつく。
そんな彼が気になって、あたしは聞いてみた。
「美作さん、道明寺どこか悪いの?」
「……あ?」
「いや、……今、病院って聞こえたから。」
そう言うあたしを美作さんはじっと見つめたあと、
「司には内緒な。」
そう言って小声で話始めた。
道明寺はここ2年ほど、睡眠薬がないと眠れないらしい。
定期的に病院に通って薬を処方してもらっている。
今日も仕事の前に診察を受けにいった。
「何が原因なの?」
「…………それは、俺からは言えねぇ。
まぁ、司には守るもんが多すぎて、一人で抱え込み過ぎたんだよ。
でも、……あいつが一番守りたいもんは、
……牧野、おまえだと思うぞ。」
道明寺が一番守りたいもの。
それが、…………あたし?
美作さんに言われた言葉が、それからずっと頭を占領して、夜になっても勉強に集中できない。
時計を見ると12時。
門限の10時に寮の門が閉まるのと同時に、男子寮と女子寮の境にも10時以降見張りがついて行き来出来ないようになる。
唯一使えるのは、飲み物や軽食が用意されている共有スペースで、あたしは勉強に行き詰まるとよくここで新聞を読んだり、雑誌に目を通したりする。
今日もグルグルとした頭を入れ替えるため共有スペースで新聞を広げていると、
今日一日あたしの頭を支配した張本人が登場した。
「おう、すげータイミング。
おまえのこと考えてた。」

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