VOICE〜ボイス 3

VOICE〜ボイス

いつものように9時過ぎにバイトが終わり、門限の10時までに寮に入るため、早歩きで帰っているあたしの鞄から携帯の着信音がした。

「もしもし?」

「つくし、バイト終わった?」

「ん、今終わったところ。」

歩きながら電話の相手、伊藤くんと話すあたし。

「この間借りた本だけど、あれ下巻だった。」

「えっ、ほんと?ごめん、よく確認しなかったから間違えたんだっ。
もうすぐ帰るから、後で上巻部屋まで持っていくね。」

「共有スペースで新聞読んでるから、そこで待ってる。」

「わかった。共有スペースね。
あと15分で着くから、…………」

そこまで話したあたしの視界の先に、
ガードレールに寄りかかるようにして立つ長身のシルエットが映り込む。

「……つくし?」
受話器からは伊藤くんの声。

その声を聞きながら、歩道の真ん中に立ち止まるあたし。
そこに、ゆっくりと近付いてきたその人が、
久しぶりに聞く懐かしい声音で言った。

「牧野。」

「道明寺。」

この1週間、何度も考えた。
どんなシチュエーションで再会して、どんな言葉をかけて、どんな風に笑おうか。

いろんなパターンを考えて想像したのに、
これは…………あまりにも不意打ちすぎる。

今のあたしは完全にこの1週間の努力を活かせそうにない。

「おいっ、大丈夫か?」

「…………えっ、あっー、ん。」
ボーとしてたあたしに道明寺が心配そうに聞いてくる。
それと同時に、耳元から
「つくし?」
と伊藤くんの声。

あたしは慌てて、
「あっごめん、あとでかけ直す。」
そう言って電話を切ると、改めて久しぶりに会う道明寺に視線を移した。

テレビでもなく、雑誌でない、生の道明寺。

「こんなところでどうしたの?」

「あー、おまえを待ってた。」

「……いつから?」

「二時間くらい前。
おまえ、こんな遅くまでバイトしてんのかよっ。
高校生の時は遅くても8時だっただろ。」
そう言って腕時計を見る道明寺が、なんだか現実味がなくて笑えてくる。

「プッ……いつの話ししてんのよ。」
そう言いながらゆっくりと歩き始めるあたしに歩調を合わせて道明寺も歩き出す。

「さみぃ。」
二時間も待ってたらしい道明寺は、肩を縮みこませてそう呟いた。

「なんか用だったの?」

「……いや、……元気にしてるかなと思ってよ。
最近、話してなかったし、電話も通じねぇし。」

どの口が言うんだよっ、という突っ込みは置いといて、久しぶりに見る道明寺は、少しだけ大人になっていて、相変わらず……漂うオーラが違う。

前までのあたしなら、そんなこいつを目の前にしただけで、なぜか照れ臭くて直視出来なかっただろうし、妙に異性を意識して落ち着かなかったと思う。

それなのに、今のあたしは……
自分でも笑っちゃうくらい、
道明寺を見ても照れたり、ソワソワしたり、浮わついた気持ちにならなかった。

隣に並んで歩く道明寺をチラッと見ながら思う。
あー、ちゃんと出来てたんだ。
あたしの気持ちの整理。

そう思うと、あんなにガチガチに想像して緊張してたこの言葉が、自然にあたしの口から出てきた。

「道明寺、元気だった?」

しかも、笑って。

あたしと道明寺の恋はNYで終わったと思っていたけど、そうじゃなかったのかもしれない。

あたしたちの恋は、

たった今、終わった気がする。

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