限りなくゼロ 22(最終話)

限りなくゼロ
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牧野の部屋で一夜を過ごした次の日の夜、
俺はNYへと帰るジェット機の中にいた。

あいつと離れるのは辛い。
だけど、俺は心に決めた。

『これから先の人生は牧野と共に過ごす。』

もう待つ必要もないし、それだけの準備はしてきたつもりだ。
だから、あとはババァと直接対決するだけだ。

トントン。
「失礼します。」
時差ボケなのか、昨夜の睡眠不足なのか、若干ボーとした頭もそのままで、ババァのオフィスをノックした。

「どうぞ。」

部屋に入るとコーヒーカップを片手に応接セットに腰かけるババァの姿があった。

「先程、日本から戻りました。
社長、少しお話があります。」
俺の言葉にババァが少しだけ笑ったような気がしたが、

すぐにいつもの声で、
「こちらに座って。」
と、自分の正面を指した。

どう切り出そうか少し迷ったが、話す内容は変わらない。
ならば、直球で。

「牧野と会ってきた。
あいつともう一度やり直すことにしたんだ。
二人で話し合って、近い内にこっちに部屋を借りる予定だ。
まだ一緒にいれる時間は少ねぇけど、それでもお互い空いた時間は出来るだけ一緒にいれるように……」

そう、牧野とは昨日の夜、ほとんど寝ずに話し合った。
日本で二人の部屋を借りてもいいが、いずれ籍を入れれば将来的にNYに移住することになるだろう。
そのため牧野も、何年かかっても国際弁護士の資格を取ると決めていてくれたらしい。

「道明寺財閥のお嫁さんになりたいなら、それぐらい努力しないとなれないでしょ。」
と、当たり前のように言う姿に、俺との将来を覚悟してくれてんだと胸が熱くなった。

それなのに、
「…………それは困ったわね。」
そうオフィスに冷たいババァの声が響いた。

「…………。」
そういうババァの態度も予想していただけに、やっぱりか……という暗い気持ちが広がり咄嗟に返す言葉も出てこねぇ。

床に敷かれた絨毯に目線を落とした俺に、
ババァがクスッと笑い、
「あなたには来月から日本に行ってもらう予定でしたのに、NYに部屋を借りるですって?
それは、困ったわね……。」
そう言って再びコーヒーカップに手を伸ばした。

「あ?……日本に行く?……俺が?」

「ええ、そうよ。
来月からあなたに日本支社を任せるわ。」

あまりに突然の話で言葉を失う俺に、
「あら、自信がないかしら?
それとも、まだ私と一緒にNYにいたい?」
確実にからかいモードのババァ。

「んなわけねーだろっ!
…………っつーことは、日本で牧野と、」
その先を言おうとした俺の言葉を遮り、

「とりあえず、明日、記者会見を開きます。
あなたの日本支社長就任の会見ですので、粗相の無いように準備すること。
会見の内容は私の方で用意します。
あなたはそれを読み上げるだけでいいわ。
わかったわね?」

話はこれで終わりというように、立ち上がるババァ。
それを見て、動揺を隠せないながらも俺もオフィスを後にした。

日本に戻れる。
あいつのいる日本。
ババァが何かを企んでいようとも、関係ねえ。
今度こそ、あいつと共に歩む。

会見の15分前。
NYのメープルホテル大ホールを貸し切っての異例の会見。
NYだけでなく、世界各国から集まった報道陣の数は半端なく、さすがの俺も圧倒されるほどだ。

それなのに、
「西田、まだかよっ!」
肝心の会見原稿が届いていない。

粗相の無いよう……って言ってたのはどこのどいつだよっ。原稿も届かねぇんじゃ、準備のしようがねーっつーの。

その時、俺らのところにババァの秘書が姿を現し
原稿らしきものを手渡した。
「社長から伝言です。
牧野さんにも必ず会見を見るように伝えなさいと……。」

その伝言を不思議に思いながらも、渡された原稿に目を通した俺は、
「マジかよ…………。」
と、呟きその場に座り込んだ。

その態度に、
「司様っ、」
と、西田が慌てて声をかけてくるが、俺はそれを手で制し、そのままズボンのポケットから携帯を取り出した。

「あ、牧野か?俺だ。
昨日話した会見だけど、もうすぐ始まる。
日本でもLIVEで見れるはずだから、どこでもいい、必ず見ろ。

それと、牧野。
もう一度おまえの気持ちを確認させてくれ。
俺とこの先ずっと一緒にいてくれるか?」

ほんの数分の会話。
携帯を切ると、俺は深く息をはき、
ネクタイを直しながら会見場へと急いだ。

NY時間、午後3時。
道明寺財閥、次期日本支社長、道明寺司の会見が始まった。
それは、そこにいる報道陣すべての予想を裏切る内容だったことは確かだろう。

「私、道明寺司は、この度、婚約を発表いたします。
かねてから好意を寄せておりました女性に婚約の承諾を得ましたので、ここに発表させて頂きます。
つきましては、来期より日本支社の…………」

その後、会見は原稿を読み上げて15分程度で終了した。
その原稿の最後には、ババァの直筆で、
『あなたには借りがありますから。』
と、一言付け加えられていた。

『借り』
何度かババァから聞いた言葉。
はじめは何のことを言っているのか分からなかったが、この間牧野と話していてやっと分かった。

4年前、ババァは俺をNYに来させるために嘘をついていた。
『牧野さんは英徳でもトップの成績で司法試験も現役で受かる実力だそうよ。
モタモタしてるとあなたの方が彼女に捨てられるかもしれないわ。』

実際は試験合格に3年もかかった牧野。
「おまえにしては時間がかかったな。
大学でもトップだったんだろ?」
そうベッドの上で聞く俺に、

「はぁー?道明寺バカじゃないの?
あたしなんかがトップになれるわけないでしょ!英徳の法学部って言ったら、どれだけレベル高いと思ってるのよ。
そこに入れただけまぐれだっつーのに、何がトップよ。」
そう話す牧野を見て、俺は悟った。

4年間、俺はババァのてのひらの上で踊らされていたってことか。

でも、『借り』は、ちゃんと返してもらった。
ババァのおかげで、少しはまともな男になってあいつを迎えに行くことが出来る。

牧野。
この先の未来は、限りない愛でおまえを守る。
だから、幸せになろうぜ。

さっきの電話での牧野の声が耳に残っている。

『俺とこの先ずっと一緒にいてくれるか?』

『道明寺じゃなきゃ、ダメみたい。』

限りなくゼロ Fin

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